
旅する3分間「ニーム村にて」

インド・イーストミドナプルという地。
ニームウッドのカトラリーが作られている場所だ。

大きな道路から外れて、車一台がやっと通れるような、ぼこぼこの狭い道をひたすら進む。
両側が池になっていることもあり、ベテランドライバーでもゆっくりと運転をしなければいけない一本道。

振りむけば、後ろでは自転車や歩行人の渋滞が。
ちょっと待ってね。と言わんばかりに
おそるおそる慎重に、アクセルを踏む。

たくさんの木々と豊富な水源に囲まれたニームの村が見えてきた。

工房のなかをのぞくと、木の粉が舞う、舞う、舞う。
気付けば顔も服も粉まみれになってしまう作業場で
たくさんの愛しい木のカトラリーが形になっていく。

外に出ると、木々や植物の優しい音に包まれる。
まるでインドの細密画。
神様が絵に描かれているような風景が、視界の全てを埋めてくれるのだ。
夕暮れ時、近くの池で夕食用の魚を釣る。
自然の音に耳をすます、静かな時間だ。

カニやナスビなど、スパイシーに揚げたおかずが食卓に並んだ。
彼らの想いが込められた、とっても美味しいおもてなしが嬉しい。
翌朝、太陽に照らされた村のなかを、ゆっくり歩いてみる。
昨日気付かなかった、たくさんの暮らしの表情が見えてくる。

工房の近くにある台所用の可愛いお家。
昨夜のご飯も、ここで作ってくれていたのかと、美味しい時間がまた蘇る。

食材を磨り潰す道具。

たくさんの牛フンの燃料を手で貼り付けた壁の模様。

彼らにとってのごく日常の風景。
その一つ一つが、私たちの感性をくすぐる。

お別れの朝、晩ご飯用の魚を釣ってくれた男性にカメラを向ける。
はにかむような笑顔が、シャッター音とともに大切にしまわれた。
この場所の優しい空気を思い出させてくれる大好きな一枚だ。

追伸。
帰り道、渋滞に巻き込まれたときの出来事。
なかなか進まない車のなかで、
ドライバーがおもむろにA4サイズの白い紙をフロントガラスに置いた。
何か書いてある。
よく見ると…「KOLKATA Police」
コルカタ ポリス。
まさかの偽パトカーに早変わり。
するするするっと渋滞を追い抜かしていく。
「え?そんなことしていいの!?」
不安げな顔を見て、現地スタッフがにやりと笑う。
「これがインドだよ。」
その人の得意げな顔が、今でも忘れられない。
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タニ ・ エンドウ