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今月のSISAM COFFEEだより

一杯の美味しさの向こう側。

海を越えて、山を越えて、いざフィリピンの山岳地方へ。
現地の「今」と私たちの「今」をつなげる、SISAM COFFEEだよりです。

たくさんの作り手とともに美味しいコーヒー豆を届けてくれている
環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」の反町さんより
今月のお便りが届きました。

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カッピングって知っていますか?


コロナ禍ではカッピングもできなかったので、久々のCGN主催の本格カッピングです

コーヒーの「カッピング」とは、ワインにおけるテイスティングのようなもの。
生豆を少量だけサンプル焙煎し、その味や香りを評価するというものです。
カッピングの仕方には、世界共通のルールがあって、生豆の焙煎の仕方、挽き方、豆の量やお湯の量などが決まっています。

また、普段飲むコーヒーの抽出の仕方とも違って、お湯につけた挽いた豆をカッピング・スプーンという専用のスプーンですくってズズっと音を立てて口に含ませ、舌全体でコーヒーの甘みや酸味、苦味などを評価します。

カッピングはコーヒーのビジネスに関わる、いわばコーヒーのプロの人たちが行なうことがほとんど。
コーヒーショップではバリスタがカッピングをして抽出方法を決めたり、焙煎所(ロースター)では焙煎士がカッピングをして焙煎の度合いを決めたりします。

生産地で行われるカッピングは生豆を仕入れるバイヤーたちが、どの豆を購入するかを決める場となります。
大量にコーヒー豆を生産しいくつものコンテナで輸出している国の生産者にとっては、この「カッピング」はまさに勝負の時といえるでしょう。

そのカッピングを、昨年暮れから今年の頭に収獲されたコーヒーの新豆で行ないました。
収獲したコーヒー豆の精選と乾燥、そして寝かし期間を終えて、ようやく輸出・販売できる準備が整い、香りや味の評価まで行きついたというわけです。


熱い時と冷めた時ではまったく味が変わってくるので、時間を空けて何度か味見をします

今回のカッピングはフィリピン国内で私たちのコーヒー生豆を仕入れて焙煎・抽出してカップで提供している人気コーヒーショップ「El Union Coffee(エル・ウニオン・コーヒー)」のオーナー、焙煎士、バリスタを招いて行ないました。

私たちが用意したカッピング用の生豆は9種。
シサムコーヒーとして輸出しているコーヒー豆は、私たちの環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」がプロジェクトとして農家の組織に苗木を配布し、育て方をはじめ収獲の仕方、加工や乾燥の方法を指導し、加工に必要な機材なども支給してきたパートナーの農家さんたちが生産したものですが、
今回のエル・ウニオン用のカッピングでは、自力でコーヒーの木を植え、加工もそれぞれ工夫して行なってきた個人農家さんのコーヒー豆を中心に豆をそろえました。

カッピングに参加したバリスタの中には、フィリピン国内のバリスタ・コンテストで優勝経験のある人もいて、かなりのプロフェッショナル。
農家の代わりに私たちのスタッフが緊張します。


サーフスポットとして有名なラ・ウニオン州サン・フアンのビーチにあるエル・ウニオンのコーヒーショップ。
マニラのBGCにもショップがあります

カッピングではどの豆も好評で、とくにナチュラル製法の豆が評価が高かったのが今年の新豆の特徴でした。
気合の入っている個人農家さんの豆は価格もかなり高いのにも関わらず、すべての生豆はめでたくソールドアウトとなりました!

昨収穫期は収穫量も前年よりは上がり、農家の人も胸をなでおろしています。
そんなコーヒーが皆さんのお手元に届くのも間もなくです。お楽しみに!


執筆:  反町眞理子
Mariko Sorimachi

1996年よりフィリピン在住。
2001年環境NGO「Cordillera Green Network(CGN)」をバギオ市にて設立。
コーディリエラ山岳地方の先住民族の暮らしを守り、山岳地方の自然資源を保全するために、
環境教育、植林、生計向上プログラムなど、数多くのプロジェクトを行っている。
2017年、CGNのスタッフたちとともに、社会的企業Kapi Tako Social Enterpriseを創立。

SISAM COFFEEの購入ページはこちら
 

山火事現場に遭遇


山火事の跡地で呆然と立ち尽くすCGNスタッフの森林官マイラ

2023年度の助成プロジェクトも間もなく終わります。
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)が日本の団体から助成いただいているプロジェクトは、事業成果のモニタリングのシーズンです。

イオン環境財団に助成いただいているマウンテン州タジャン町のプロジェクトの視察に、CGN日本事務局を担ってくれている竹本泰広さんが、広島からはるばるやって来てくれました。
パンデミックを挟んで実に6年ぶりの来比。
タジャン町の小学校での環境教育の授業の視察と、アグロフォレストリーで住民たちが植えたコーヒーと日陰樹(コーヒーの苗木と一緒に植える日陰を作る木。シェイドツリーと呼ばれています)の生育状況をチェックするのが目的です。


右端から竹本さん、詩人でパフォーマーのドゥマイ、CGN森林官のマイラ、反町

昨年のこのコラムでも山火事のことを書きましたが、今年の山岳地方は昨年以上に雨が少なく、まだ乾季半ばというのに、CGNの拠点があるバギオ市内や周辺でも山火事が多発しています。
今回訪れたCGNのコーヒー事業地のタジャンでは、バナナの葉っぱさえ茶色く乾き、どこもかしこもブラウンワールド。

「12月から5月までの乾季は野菜が獲れず農家は定期的な収入がないのです。苦しい日々が続きます」と地元の人(このプロジェクトで植えたコーヒーが収穫できるようになったら、乾季中の収穫物になります!)は話します。

環境教育の授業の視察で訪れた小学校の先生たちからも、「山火事は日本のテクノロジーで止められませんか?」「生徒向けの環境教育のテーマに、山火事のことを加えたい」など、山火事の話題はあらゆるところで持ち出されます。

私たちは町中から少し離れたエコファームに宿泊させていただいていましたが、町の中心からエコファームに向かう途中の道路沿いでも山火事が発生したという情報が入りました。
すでに鎮火したとのことで、翌朝、山火事現場に行ってみました。


松の木もさぞかし熱い思いをしたことでしょう

目の前に現れたのは、幹が痛々しく黒く焼けただれた松林と、白く積もる灰。
靴を履いていても長時間、火で痛めつけられた地面の熱の名残りが伝わってきます。
たった1日でこんなにも焼き尽くしてしまうものなのか……と言葉を失います。

一度発生してしまった山火事の火を消すことは、消防車の入れない山間部では難しいことは容易に想像できます。
消火は近くに生えている草を鉈(ナタ)で刈り取り、炎をその草で叩いて消すしかないのだそうです。

山火事は山岳部の村では乾季に頻発する重大な災害で、村人たちはコミュニティで守られている助け合いの伝統的慣習で、各戸から人員を出して村中で協力し合って消火に当たるのだそうです。

数えきれないくらい山の村を訪れている私ですが、まだ火種がくすぶっているような山火事現場を訪れた経験は初めてでした。
この場所は私たちのコーヒーの苗木を植えた事業地ではないのですが、もし、ここが農家が手塩にかけて植え、育ててきたコーヒーの植樹場所だったとしたら、そして燃えていく苗木をただただ見ていることしかできないとしたら、農家の人たちはどんなに悔しい思いを抱くことでしょう。

山火事現場の一部では、くすぶる煙だけでなく、ちらちらと炎が見えていることろもありました。
それを火種にして再び燃え広がったりしないのでしょうか?
同行したCGNスタッフのマイラが近くの草を刈ってきて叩いて消そうとしましたが、地中に埋もれている木の根っこの中で残り火がくすぶっているということで、地表の炎を叩いて消しても収まるものではないということ。

竹本さんは日本では数多くの災害ボランティア経験を経て、防災ワークショップの講師なども務め、目下のいちばんの関心は「防災」という人。
なんの道具も持ってきていない中、素手で土を掘って炎にかけて何とか火を消し止めようとしてくれました。

しかし、私たちの力では完全消火は無理と判断し、「まだこんな感じでくすぶっています」と写真に収め、タジャン町政府の環境自然資源課スタッフに送付しました。
火事現場近辺に人家はなく、山火事慣れしてしまっているともいえる町政府は、この程度のくすぶりで何か手を打ってくれるものなのでしょうか?

山の自然とともに暮らす人々が日々直面している山火事災害の恐怖を目の当たりにした経験でした。
それでも木々の失われた土地に苗木を植え続け、森を守り続けることが、唯一、水源を守り、山の村の緑の暮らしを維持する手段なのです。


すくすくと育っているコーヒーの苗木。周囲は落葉した松葉。松葉はいったん火がつくと燃え広がるのが早い。

2月 手作り木製パルパー(皮むき機)活躍中

このコラムでも何度か「コーヒーの収穫後の加工が味の決め手になる!」というようなお話をしてきたと思います。

加工には実に手間のかかるたくさんのプロセスがあって、美味しいコーヒーを作るためにはどのステップもとても大事なのですが、「ウォッシュド(水洗式)」と言われるここフィリピンの農家の多くが行なっている加工方法では、収穫した赤いコーヒーの実(コーヒーチェリーと呼ばれています)の皮をむく作業が最初のプロセスとなります。


2022年12月のタジャン町での手作りパルパー講習会

ここコーディリエラ地方では、私たちのNGOだけでなく、農業省(DA)や環境自然資源省(DENR)などの省庁も、環境保全と住民である先住民の生計向上のためにコーヒー栽培を勧めています。
全部合わせると、植えられたコーヒーの木はたいへんな数に上っていると思われます。

しかし、肝心な収獲後の加工機材の支給は全然追いついていません。
縦割り行政はどこの国でも似たようなもので、収獲したコーヒーの加工に関しては、管轄する省庁は貿易産業省(DTI)に変わります。
商品化と販売に重きを置いている貿易産業省の関心は、生豆の焙煎とパッケージなどのブランディングに集中しています。

「どんなに高価な焙煎機を導入してステキなデザインのパッケージにパックしても、生豆の状態がよくなかったら美味しいコーヒーにはならない」
という基本的な認識が欠けているのです。
その結果、コーヒー豆そのものの品質を向上させるための、収獲後の加工に関するサポートがまったく不足しているというわけです。


2016年の東ティモール・レテフォホでの手作りパルパー講習会の様子

私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」でも、助成事業やクラウドファンディング、シサム工房からの寄付などで資金を得て、ずいぶんたくさんの皮むき機(パルパーと呼ばれています)をコーヒー栽培農家の組織に寄付してきました。
しかし、コーヒー・チェリーの皮むきは収獲後できるだけ速やかに行なう必要があり、またコーヒーの収獲は11-1月の3ヵ月の間に集中するため、パルパーの数はまったく足りません。

そこで、2016年、私たちは3人農家さんたちを連れて、コーヒー生産の盛んな東ティモールという国に、手作りパルパーの作り方を学びに行きました。
東ティモールは、ポルトガルの植民地ののちインドネシアに占領され、たいへんな苦難のときを越えて独立を勝ち取ったアジアでいちばん新しい国です。

ポルトガル統治時代に植えられた大量のコーヒーを国家再建の柱にしようと、独立後いくつかの国がコーヒー生産のサポートに入りました。
しかし、今のフィリピンと同じくパルパーが足りなく、農家の人たちがあれこれ工夫して廃材で作ったという性能のいい皮むき機があるというのです。

当時、ピースウィンズジャパンという日本のNGOのスタッフとして現地に駐在していた山本博文さんのコーディネートで、私たちは東ティモールの一大コーヒー産地であるレテフォホに向かい、パルパーづくりの名人のいる村を数日にわたって訪ね、手取り足取りその作り方を学びました。
帰国後、3人の農家の人たちは、実際に学んだパルパーを、こちらで手に入る材料で手作りしてみました。


東ティモール研修に参加した農家の一人ダニーロさんが講師を務めて、手作りパルパーの作り方を新しいコーヒー生産地に伝授。

あれから7年。いまでもCGNが主催する講習会では、東ティモール研修に参加した3人農家さんはパルパーづくりの講師として活躍してくれています。
先日、そのうちの一人であるダニーロさんが、今も現役稼働中のパルパーの写真「今昔」を送ってくれました。

山岳部の村々ではとても時間の流れがゆっくりしていますが、いまもあのときの農家さんが7年前に学んだことを他の農家に伝え続けてくれていることをうれしく思っています。


7年前の2016年に東ティモールから帰国後にダニーロさんが手作りしたパルパーと、それを使って皮むきの手伝いをするダニーロさんの息子さんたち。

すっかり大きくなった息子さんたちは、今もその木製パルパーでコーヒーの皮むき中。

こちらは直近の講習会。2024年1月20日にイトゴン町で開催しました

 

1月 収穫最盛期。赤い実たちが収穫を待っています!

クリスマス、そして年末年始とここフィリピンでもあわただしい日々です。
そして、コーヒーのほうも収穫真っ盛りです。

コーヒーの実(コーヒーチェリーと呼ばれています。きれいな赤色でまさにチェリーの名にふさわしい赤くてかわいい実なのです)は、一気に赤く色づくのではなく、緑から徐々に赤く色を変えていきます。
最初てっぺんのほうが赤くなり、徐々に茎のほうまで赤くなっていきます。

緑、黄色、オレンジ、赤と一つの木にカラフルに実をつけています。

チェリーを付けている茎のほうまできれいに赤くなった「まさにその時」が、「摘みどき」と言われています。
真っ赤な実は熟度がピークで、同時にいちばん糖度が高くなります。
収穫後の加工・乾燥・焙煎を経ても、そのチェリーそのものが持っている甘みは保持されて、カップのコーヒーに自然でまろやかな甘みとなって反映されるのです。

まだ、青い未熟の実が赤い実に交じっていると、これまた加工・乾燥・焙煎を経ても味に反映されるというわけです。
果皮を剝いてしまったら同じような色のパーチメントや生豆で、「わからないだろう」とタカをくくっている農家さんも、もしかしたらいるかもしれません。

しかし、生豆の状態で選別をする際に、未熟のまま収穫された豆は、見た目でわかり「欠点豆」としてはじかれてしまいます。
そして、実際に焙煎して味見をしてみたら、その道のプロの人には必ずバレます。
香味の評価は、そのまま価格に反映されるわけで、収穫のときにどんなに忙しくても「完熟した実」だけを摘むという作業はとても大事なことなのです。

ジャネットさん

さて、私たちのパートナー農家さんの一人、カパンガン町のジャネットさんから、熟したコーヒーの実の写真が届きました。

ジャネットさんは小学校の先生なのですが、学校でのクリスマス会を終えてクリスマスと年末年始の休暇に入ったとたんに、コーヒー収穫に専念です。
赤く熟した実たちが、「早く摘んでくれええ」と叫んでるかのようです。
帰省している大学生の子どもたちも動員。
少しでも甘くて美味しいコーヒーのために、家族総出で収穫の毎日だそうです。

ジャネットさんが教えている小学校のクリスマス会での食事の様子。
お皿はバナナの幹で切ったもの、そして、手でいただきます。とってもエコで、みんな楽しそう。

 

収穫を待っているジャネットさんのコーヒーたち。

アグロフォレストリー農園はまるでジャングル。収穫もタイヘンで、効率も悪い。。。でも、環境を守るために頑張ってくれています。

12月 カナダからコーヒー事業を立ち上げるための調査チームが来ました


トゥブライの農家のコーヒー豆の乾燥を見学

こちらフィリピン・コーディリエラ地方は今年もコーヒーの収穫期を迎えています。今年は8月に雨が続いたせいか、コーヒーの実が熟するのが遅く、収穫はまだピークを迎えていません。
今のところの結実の様子は、昨年、収穫量が多かったところは今年は少なく、昨年少なかったところは多いようです。
キリスト教国のフィリピンではクリスマスを盛大に祝うため、12月になると人々は多忙を極めます。
その前に、できるだけ収穫や収穫後の加工を終えていたいところです。

そんな中、カナダのケベック(フランス語圏)から国際NGOのスタッフ二人が私たちコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)の事業地を視察に訪れました。

そのNGOが得意とするのは、組合などの組織強化。
1985年の設立以来、世界中40か国以上で800以上の団体や組織を対象にプロジェクトを行ってきたそう。
現在、コーディリエラ地方のコーヒーバリューチェーンにおける、とくに先住民の女性たちの役割を強化するためのプロジェクトを立ち上げたいという企画が進んでいて、対象事業地のフィールド調査にはるばるカナダから飛んできてくれたというわけです。


キブンガン町ではサヨテ(ハヤトウリ)とともに植えられているコーヒー栽培地を訪問

CGNはコーディリエラ地方で15年にわたって協力関係を結んできたベンゲット州の6つの事業地とパートナー団体を案内し、カナダのNGO調査チームは農家の人たちにインタビューを行いました。
おもに、コーヒー農家の組織のあり方、運営方法、組織における女性の役割などに関する質問に、農家の人たちは真摯に応えてくれました。
調査チームは苗床やコーヒーのアグロフォレストリー栽培地も訪問。最終日には私たちCGNのスタッフからもコーヒー生産地が直面している課題について聞き取りを行いました。


CGNスタッフが通訳して、農家の人たちにインタビュー。

調査チームの3日間のコミュニティ訪問を終えての感想は「CGNスタッフと農家との信頼関係が強固であることが実感できました」とのこと。
女性の地位に関しては、CGNスタッフから「コーディリエラ地方では女性の社会的地位はローランド(低地)に比べて概して高いと思う」といった意見も聞かれました。
コーヒー生産地が抱える環境面、経済面での多岐にわたる課題解決のための活動についてはこれから計画を練っていきます。
CGNでは過去にトゥブライにおいて日本のNPO法人WE21ジャパン、JICA横浜とともに組織強化とコーヒーの品質向上のプロジェクトを3年間行ったことがあります。
それらの経験を踏まえ、新たに今現在のコーヒー農家と組織が抱えている課題に取り組み、アグロフォレストリー(Nature Based Solutionと言っていました。NGO用語ですね)の拡大を図り、最終ゴールとしては気候危機を軽減することを目指すプロジェクトとなる予定です。
資金調達はこれからになりますが、国際NGOのプロフェッショナルたちの手を経て、どんなプロジェクトが生まれるか楽しみです。


トゥバのアグロフォレストリーによるコーヒー栽培地。

トゥブライの苗場も訪問。百戦錬磨の調査スタッフは、コーヒーの生育にもたいへん詳しく頼もしい限り。

11月 日本一有名なコーヒーの祭典に行ってきました

フィリピン人スタッフが笑顔で試飲コーヒーをサーブしてくれます。 右は焙煎のサポートをしてくれているアームズの竹林さん

スペシャルティコーヒーという言葉を聞いたことがありますか?
一言でいえば「高品質で美味しいコーヒー」ということですね。
具体的には以下の条件がそろったコーヒーということになるそうです。
① 産地や農園名など生産元がはっきりしている。
② 個性的な素晴らしい味わいがある。
③ 欠点豆が少ない。

そのスペシャルティコーヒーが世界中から集まるのが「World Specialty Coffee Conference & Exhibition」
毎年秋口に開催されるアジア最大のコーヒーイベントです。
今年で設立20周年を迎えるスペシャルティ・コーヒー・アソシエーション・ジャパン(SCAJ)が主催していて、通称「SCAJ」と呼ばれています。
コーヒーのビジネスに関わっているすべての人が知っているこのイベントですが、私はタイミングが合わず今まで一度も行ったことがありませんでした。
たまたま一時帰国の日程が、今年の開催日と重なっていたので、コーヒー好きの友人たちと行ってきました(なんとこのイベント、今年は4日間の開催で総入場者数が69,000人以上だったそうです)。

会場は巨大な展示場会場である東京ビッグサイト

初日に訪ねた私のお目当ては、昨年から出展を始めたフィリピン大使館貿易投資部(DTI)のブースです。
どんなフィリピンコーヒーが、この世界中の美味しいコーヒーとコーヒー好きが集まるイベントに出展されているのか興味津々です。

フィリピン大使館のブースは、入口をはいってすぐの抜群のローケーションにありました。
フィリピンを代表する美味しいコーヒーがトレイに並んでいます。
おもに、フィリピン国内のコーヒー競技会に出品され、受賞したコーヒーです。

一般社団法人日本焙煎技術普及協会(通称:アームズ)のボランティアの方々が、焙煎と抽出でサポートしてくれていて、ブースに並んだサンプルを試飲できました。
フィリピンからは3つのコーヒー会社が参加していて、そのうちの一つがミンダナオ島ダバオ市在住の太田勝久さんが代表を務めるコーヒー輸出会社PMCEI

太田さんはこのイベントにやってくるコーヒー好きの人たちに、美味しいフィリピンコーヒーを紹介しようと、フィリピンの正装であるバロンタガログに身を包み熱心にビジネストークを展開していました。

NHKの取材も入っていました。フィリピンのブースは常にたくさんの人で大にぎわい

それにしても、今回試飲させてもらったフィリピンコーヒーは、どれもフィリピン国内でもめったに口にすることのできない美味しいコーヒーでした。
世界各国から集まった選りすぐりのスペシャルティコーヒーに比べても決して遜色がありません。
しかし、そのほとんどがミンダナオ島産のコーヒーでした。
焙煎のプロであるアームズの竹林さんの話では、ミンダナオ産のコーヒーは昨年に比べてかなり収穫後の加工の技術が上がっていることが伺えるとのこと。
ミンダナオ島のコーヒー農家の人たちが本気で品質向上に取り組んでいることが、その味から実感できました。

来年はルソン島北部からもこの大イベントに紹介されるコーヒーが増えるように頑張ります!

右端がダバオ市在住でコーヒー輸出会社を営む太田さん

 

北ルソンから出品されていたのはマウンテン州バーリグの若手農家が生産したコーヒーでした

 

10月 なかなか手ごわい新しいコーヒー栽培地です

みるみるうちに森林は畑に姿を変えていきます。
そして次に待っているのが、水不足と土砂崩れなどの災害です。

私たちのコーヒープロジェクトは、環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」としての森林保全のための植林活動が始まりです。もう17年も前のことです。
つまり、植える木はコーヒーでなくてもよくて、どんどん伐採の進む森を守ることのできる樹種だったら何でもよかったわけです。

植樹する木のひとつにコーヒーノキを選んだのには、活動地であるルソン島北部山岳地方の気候や植生がアラビカコーヒーの生育に適しているという地元大学の調査結果がベースにありました。
また、コーヒーの収穫物(飲料としてのコーヒー豆ですね)が、地域の野菜などの価格変動に左右されず世界を相手に販売できるということも大きかったです。

その地に住む先住民の人たちに「植えたい」「育てたい」というやる気を起こしてもらうことが植樹事業を成功に導く大きなキーですが、そのためには確実に安定した収入に結びつくことを村の人に説かなくてはなりません。

新しい事業地の村に行く途中の高台。
ここは携帯電話のシグナルが届くので若者たちのたまり場になっている

もともとコーヒーを商うコーヒー屋としてスタートしたわけではないCGNの植樹事業地は、どこもビジネスとしてコーヒーを扱うには不利なところになります。
幹線道路から遠く離れていて交通の便のえらい悪い場所だったり、過去に稼働していた鉱山開発によって水がない地域だったり、荒廃が進んでいて土砂崩落が台風や大雨の度に起こる危険な地域だったり……。
ビジネスとしてコーヒーに関わってる人だったら効率が悪すぎて、こんな地域の人たちとビジネスパートナーを組むことはとてもとても難しいというような場所なのです。

新しい事業地であるカバヨ村の中心。
左の建物がCGNがセミナーを行ったバランガイホール(公民館)

私たちがそういうところで植林ができたり、セミナーを開催できたりするのは、環境NGOとして政府機関や企業のCSRによるプログラムから助成金を得てきているからです。
森林の保全や環境の修復が急務とされている地域で、しかも、政府による活動もなかなかうまくいっていなかったり、後回しにされていたりする地域を、あえてプロジェクト事業地に選んでいるわけですね。

バランガイホール(村役場)にあるソーラー充電ステーション。
900人が暮らすこの村の唯一の電源です。

今年、新たにアグロフォレストリーによる植栽をしようとしている場所は、そんな辺境の地に慣れている私たちにとっても、なかなか手ごわい場所です。

何しろ村に至る道路がまったく舗装されておらず、想像を超える凸凹道。
しかもトラックが通れる道幅がなく、四輪駆動の車体を上げた改造車じゃないと辿り着けません。

そして、電気もまだ通っておらず、携帯電話のシグナルも届きません。
住んでいる人たちはルソン島北部のさまざまな先住民の中でもマイノリティであるカラングーヤという民族で、閉鎖的なところもあります。

生計手段が乏しいので貧困度もかなり高く、住民はこんな悪条件の中でも森林の農地への転換を必死で進めています。

苗床の作り方の実習ワークショップ。農家もスタッフも講師も一緒に作業をします。

課題山積のこの事業地。
それでもCGNがこの地を新たな事業地として選んだのは、住民の人たちの一部に、コーヒーを植えることで暮らしぶりをよくし地域の森を守りたいという強い熱意があったからです。

苗木を外部から運ぶことも難しい場所なので、苗木づくりも自ら行う必要があります。
しかし、先日、行ったセミナーでは、かつてないほど積極的に住民の方々からの質問が飛び交いしました。

私たちも、CGNの過去のプロジェクトに参加した農家の人に来ていただいて経験談をシェアしてもらうなどして、住民の人たちと同じ視点で活動を行っていくことを強調しました。
今後のこのプロジェクトの行く末にご期待し、ぜひ応援ください!(実のところ、不安もたくさんあります!)

CGNが10年以上、日本のNGO、WE21のサポートで活動してきたトゥブライの農家のマカイさんが経験をシェアしてくれました。

9月 コーヒー豆、ついに日本に到着

2022年末から2023年初頭に収穫されたコーヒー豆が日本に到着しました。
今年のフィリピンの雨季は雨量が多く湿度の高い日が続いていますが、本格的な長雨の直前に日本に向けてコーヒー生豆たちを送り出すことができて本当によかったです。

(トラックに積まれマニラに向かうシサムコーヒー)

収穫した赤いコーヒーチェリーを生豆にするまでには、たいへんな時間と手間がかかることは、これまでも何回かこのコラムでお伝えしてきました。
そして、ようやく輸出する生豆の状態になったら、今度は「植物検疫」を受けなければなりません。
コーヒーを飲んでいるときにはそんなこと思い出す人はいないでしょうが、そう、コーヒーは「植物」なんです。

植物検疫とは、苗、穂木、球根、種子などの栽培用植物、野菜、果物、切り花、木材、穀類、豆類等の消費用植物などを日本が輸入するときに、病害虫が日本国内に侵入しないように検査することです。
もともとは植物が原料でも、製茶や家具、ドライフルーツなど、高度に加工されたものは、植物検疫を受けなくてもいいことになっています。
コーヒーも加熱して焙煎し、パックされたものは植物検疫を受ける必要がありません。
しかし、加熱していない生豆の場合は、植物検疫を受けて病害虫がないことを証明する書類を添付しないといけません。

(植物検疫の様子)

政府の植物検疫所の検疫官が倉庫にやってきて無作為に選んだサンプルの豆を取り出して、病害虫の有無を調べます。
いくら丁寧に選別をしたと思っていても、どこかに潜んでいた虫が突然姿を見せたりしやしないかと、いつもドキドキします。

新型コロナウィルスの感染はあっという間に世界中に広まったし、日本でも、いないはずの外来危険生物であるヒアリが見つかってニュースになったりしていますね。
どんなルートでどんな生き物やウィルスが国境を越えてやってくるかわからない時代です。
なので、最近では日本でも水際での検査も厳しさを増しているとのことです。

(一粒ずつチェック)

植物検疫をパスしたコーヒー生豆は、コーヒー豆保存のために開発されたエコタクトという気密性の高い保存袋を中に入れた麻袋に50キロずつ入れられます。
麻袋は巨大な縫い針に麻糸を通して縫い合わせられます。
そして、たくましい男性アルバイトの手によってトラックに積み込まれ、マニラの港へ向かいました。

(麻袋の縫い合わせも手作業で行っています)

それから1ヵ月。先日、ようやく、神戸港に到着していたコーヒー豆が通関しました、との知らせが来ました。
毎年、同じ輸出のプロセスですが、でもやっぱりちゃんと日本の倉庫に収まるまでは、気が気ではありません。
みなさまのお手元に新しい豆が届くのもまもなくです。どうぞお楽しみに。

(輸出前最後の選別を真剣に行うカシリガン村の女性たち)

 

8月 コーヒー加工体験をさせてもらいました ~インターン安藤さんレポート その2~

コーヒー加工体験をさせてもらいました!

先月に続いて、コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)でインターンをしている安藤あかりがレポートします。
マニラから来たコーヒー好きのお二人と一緒に、トゥブライ町のヴィナさんのアグロフォレストリー・コーヒー農園を訪問したことは7月のコーヒーだよりでご報告しました。

(ベテランコーヒー農家のヴィナさん)

本当に親切なヴィナさん。農園を案内してくれたあとに、収穫したコーヒーの実を一杯のコーヒーにするまでの過程を実演し、体験させてくれました。

CGNがシサムコーヒーとして日本にお送りしているコーヒーは、ウォッシュドという精選方法(収穫後すぐに果皮を取って水で洗い、パーチメント(皮の中にある殻)付きの状態で乾燥させる)でコーヒーの実を生豆に加工したものですが、
今回ヴィナさんが見せてくれたのは自家用にとっておいたナチュラルという精選方法によって加工されたコーヒー豆です。

ナチュラル精選法では、摘んだ赤い実の皮をむかずにそのまま天日干しし、乾燥が終わってから一気に果皮とパーチメントを取り外して、中にあるコーヒー生豆を取り出す方法です。
実はこのナチュラル製法が、ここコーディリエラ山岳地方の先住民の人たちが従来とってきた伝統的な精選方法でもあるのです。

(ナチュラル精選方法で乾燥されたコーヒー豆)

機械を持っていないヴィナさんのお宅では、昔は米の脱穀に使っていたという年季の入った臼と杵で乾燥したコーヒーの実をついて、果皮とパーチメントをはがす作業をしていました。

(杵と臼は博物館に展示されていそうな年季の入ったものでした)

中の豆が割れてしまわないかと不安になりながら重い杵で恐る恐る体験させてもらっていたら、ヴィナさんは「もっと強くやらないと外れないよ!!」と冗談交じりに笑顔で、見本を見せてくれました。
強くつくといっても強すぎると中のコーヒー豆が割れてしまうので、豆を覆っている果皮とパーチメントが割れるくらいの適度な強さでつかなければならないそう。
その加減がなかなかむずかしいのです。
それにしても、この労力に対してとれる生豆は臼に入っているわずかな量だけ。
農園で収穫できるコーヒー豆すべてをこの手作業で脱穀することを考えると、気が遠くなりそうでした。

ほとんどの果肉とパーチメントが潰されて生豆から外されたら、ヴィナさんは臼の中身をざるに移して、そのざるを見事に煽って果皮とパーチメントの殻を吹き飛ばします。
そして、最後は手作業で選別し、生豆だけを取り出します。

(チャーハンを炒めるようにざるを使うと、みるみるうちに生豆と果肉&パーチメントが分かれていきます)

(最後は吹き飛ばせなかった果肉やパーチメントを手で取り除きます)

取り出した生豆は大きなフライパンで焙煎です。
薪に火をつけ、中華鍋のような形をした大きなアルミ製の調理鍋に生豆を入れて焙煎します。
火にかけてしばらくするとパチパチとはぜ音がし、その後は一気に火が回るのでそこからは手早く混ぜないと焦げてしまうそうです。
あっという間に色づき、弾ける音と香りが変化していく時間はとても豊かな時間でした。
焦げすぎないか心配になりながらもなんとかヴィナさんと、コーヒーの香味や焙煎に詳しいCGNスタッフのリリーさんの指導を受けて焙煎ができました。

(山岳地方の家ではたいてい外にも薪調理用の場所があります。コーヒーはそこで焙煎されるのが一般的です。)

焙煎した豆を挽いてヤカンで煮だしてもらったコーヒーは、甘みがあってほのかにベリーのような酸味を感じる美味しいコーヒーでした。

(豆の脱穀から体験させてもらってできたコーヒー)

ヴィナさんは、常に笑顔が弾け、冗談を飛ばしてくれるとてもフレンドリーな方。
でも、コーヒーに向かう眼差しは真剣で、コーヒー豆一粒一粒を大切にしていることがひしひしと伝わってきました。

そんなヴィナさんの気持ちをコーヒーも一心に受けて美味しくなっているような気がしました。

執筆:
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)インターン:安藤あかり

7月 コーヒーの育つ森に行ってきました ~インターン安藤さんレポート その1~

(前列真ん中がヴィナさん。後列右から2人目が私です。)

今回のコーヒーだよりは、NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」で4月からインターンをしている安藤あかり(大学を休学中です。大学では森林の研究をしています)が報告します。

マニラからCGNを訪ねて来たコーヒー好きの日本の方二人とともに、アグロフォレストリー(森林農法)でコーヒーを育てている農園を訪問してきました。

訪問させていただいたのは、トゥブライ町のヴィナさん。
10年以上アグロフォレストリーでコーヒー栽培をしているベテランの農家さんです。

トゥブライ町は、フィリピン・ルソン島コーディリエラ山岳地方で一番大きな町バギオから、山あり谷ありのくねくね道を車で2時間ほど行った場所にありました。
山が広がっていて、とても涼しい!!
ヴィナさんの農園は、この山の中にあります。

(たくさんの種類の木々が混ざっているアグロフォレストリーの森。どれがコーヒーの木なのか見極めるのは難しい。)

“コーヒー農園”というより、想像していた以上に”森”で驚きました。

このうっそうとした茂みの中にコーヒーが植えられているのです。
コーヒーの収穫シーズンは11月から始まるそうなのですが、すでに赤く熟しかけている実がありました。
この時期にコーヒーが色づいているのは普通ではないそうで、気候変動の影響かもしれません。

(若い実がついているコーヒーの木)

(熟して赤く色の変わった実)

コーヒーの木の下に見えるピンク色や赤色の花は、アンスリウムと呼ばれる観葉植物で、バギオの街角の花屋で鉢植えや切り花としてよく販売されているものです。
これもコーヒーと一緒に栽培して販売しているのだそうです。

(アンスリウムの花。コーヒーとの組み合わせは意外な気もしますが、これも地域で工夫されているアグロフォレストリーのやり方です。)

見上げるとバナナの木もありました。
コーヒーノキの上に葉を広げ、コーヒーに直射日光が当たらないように日影をつくっています。なったバナナの実は、農家にとっては大事な食料であり収入源となります。

その他にも、コーヒーノキと一緒に、ベンゲット松というこの地に特有の松の木やギパスと呼ばれるお茶になる灌木などのたくさんの植物が共存する森が、ヴィナさんのコーヒー農園でした。

(バナナの木。訪問したときは実はついていませんでした。)

こんな森の中でコーヒーが栽培できるのはどうしてでしょうか?
実は植物にもいろいろな種類があって、太陽の光をたっぷりと浴び、そのエネルギーをたくさん吸収することを好む植物もいれば、太陽を好む植物の下にできた日陰でゆっくりと成長することが好きな植物もあります。

いくつかあるコーヒーの種類の中でもここコーディリエラ地方の高地で栽培されているアラビカ種のコーヒーノキは後者、つまり、その他の樹木が作った日陰での栽培に適した植物なのです。

ここフィリピンの亜熱帯の森の特徴は、日本の森と比較すると限られた場所に多様な動植物が生息していることです。
ヴィナさんのアグロフォレストリー農園でも、一番上には松などの樹高の高い樹木、その下にバナナ、その下にコーヒー、その下にアンスリウムのような観葉植物やその他といったように、限られた空間でそれぞれに適した樹木が棲み分けて育っていて、多様性のある森を成していました。

コーヒーノキもまた、その森の中で重要な役割を果たすものの一つとして、トウブライの農園に根を張っています。
ヴィナさんによると、コーヒー以外は元々そこに生えていた木々だそう。

「その中にコーヒーを植えさせてもらったのよ」
そう話すヴィナさんまでが、森の一部のように感じました。

6月 大型台風がきっかけで始まったアグロフォレストリー

(コロス集落のフェリーさんのアグロフォレストリーによるコーヒー栽培地。どれがコーヒーの木かわかりますか?)

ここ1週間くらい、巨大な台風がここルソン島北部を直撃するというニュースが流れて、気持ちが落ち着かずそわそわしていました。
台風の進路は北にそれましたが、台湾、そして日本へ向かっているということで、大きな被害が出ないことを祈るしかありません。

日本はたいへん自然災害の多い国ですが、フィリピンもまたそうです。
ドイツの「ジャーマン・ウオッチ」というNGOが発表した「2010-2019年に気候変動の影響を最も受けた世界の国ランキング」で、フィリピンは第4位。
インフラ整備がぜい弱なこともあり、毎年、台風シーズンには、洪水、土砂崩れなどの被害があちこちで起こります。

とくにここは急峻な山々がつらなる山岳部。
もう10年以上前ですが、2009年10月の台風(フィリピンでは台風に名前が付けられますがその名前はぺペン)では、おもに土砂崩落による死者・行方不明者が500人を超えるという大惨事でした。

(コロス集落の台風ぺペンでの土砂崩れ/2009年)

実は私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」が、本格的にアグロフォレストリー(森林農法)に乗り出したのもこの台風がきっかけでした。

台風の大雨によりベンゲット州トゥブライ町のコロスという小さな貧しい集落のど真ん中で大きな土砂崩れが起こりました。
あまりの雨量に危険を感じた住民たちは、高台にある教会に避難をして無事でしたが、多くの家が全半倒壊、主要道路は崩れ落ちて分断、生計を支えていた畑も多くが土砂とともに崩れ落ちました。

(コロス集落のコーヒー栽培農家の人たち/2020年)

この台風では、被災地に国連をはじめ世界各国から救援物資が届きました。
CGNも日本から寄付を募り、すべてを失った人たちに当座の暮らしに必要なものを届ける緊急支援に乗り出しました。
その支援先の一つがコロス集落でした。

集落には古着や缶詰などの物資が届いていましたが、そういった支援はほんの一時的なものです。
静かな集落のど真ん中で起こったあまりの惨事に動揺する人たちに会って、私たちはここで持続可能性に考慮した長期的な復興プロジェクトを行うことにしたのです。
その手段として、森を守りながらそこに植えられた作物から収入も得られるアグロフォレストリーによるコーヒーの栽培を始めたわけですね。
資金は神奈川県をベースとするパワフルな女性たちのNPO法人「WE21ジャパン」がサポートしてくれました。

(私たちが企画する植林や収穫の体験ツアーも、多くをこのコロス集落の協力で行っています。写真は2022年の植林体験ツアー。)

それから10年間、私たちはさまざまなかたちでコロス集落でのアグロフォレストリーをあと押しし続けてきました。
今ではこのプロジェクトで植えたたくさんのコーヒーの木は集落の風景に当たり前に溶け込んでいます。

生産量もようやく1トンを超え、人々の暮らしの支えになっています。
もちろん、私たちは今もコロス集落で生産されたコーヒーをフェアトレードで購入し、シサムコーヒーとして日本の皆様にお届けしています。


執筆:  反町眞理子
Mariko Sorimachi

1996年よりフィリピン在住。
2001年環境NGO「Cordillera Green Network(CGN)」をバギオ市にて設立。
コーディリエラ山岳地方の先住民族の暮らしを守り、山岳地方の自然資源を保全するために、
環境教育、植林、生計向上プログラムなど、数多くのプロジェクトを行っている。
2017年、CGNのスタッフたちとともに、社会的企業Kapi Tako Social Enterpriseを創立。

5月 新しいコーヒー生産パートナーのコミュニティ

(コーヒー・パーチメントの豆の乾燥作業)

収穫したコーヒーの実の精選の仕方にはいくつかあるのですが、私たちは農家の人たちに「ウォッシュド」という精選方法をすすめてきました。
その理由は標高の高いコーディリエラ山岳地方では日照時間が短く、コーヒー豆を乾燥するのが大変なことがあります。
山の天気は変わりやすく、急に雨が降りはじめ、せっかく乾燥中の豆が濡れてしまうこともあります。
そして、乾燥がきちんとされていないコーヒーの実やパーチメントには、カビが生えてしまうというリスクがあるのです。

「ナチュラル」製法では1カ月もの間、毎日コーヒーの実を外に運んで乾燥をしなければ、適切と言われている水分率10-12%に乾燥させることができません。
ウォッシュド製法でも皮をむいたパーチメントコーヒーを乾燥させるのに10日くらいかかりますが、それでも乾燥にかかる時間は「ナチュラル」より短くなります。

農家が大切に育ててきたコーヒーが、乾燥がうまくできないことで台無しになってしまったことが今までに何度もありました。

そこで今年、私たちは新しい決断をしました。
まだ乾燥が最後までできていない水分率の高いパーチメント・コーヒーを農家さんから買い付け、太陽が燦燦と照っている標高の低い村に持っていって乾燥させることにしたのです。
そして、その村の人たちに乾燥した豆の脱穀(もみすり)作業と、欠点豆を取り除く選別の作業もしてもらうことにしました。

(クラウドファンディングで購入したハラーの1台はこの村に設置しました)

新たなパートナー・コミュニティは、バギオから西に山を降り切ったあたりにあるラ・ウニオン州のカシラガン村です。
アラビカ・コーヒーが育つのは標高1000メートル以上の地域なので、この村の人たちはコーヒーノキの栽培をしたことがありません。
土地を持っておらず、地主のもつ田んぼの小作人として働いていたり、どこにでも育つススキに似たタイガーグラスという草でホウキを作ってなんとか暮らしを成り立たせています。

コーヒー好きの牧師さんがこの村で布教活動を行っていて、「どんな仕事でもいいから貧しい村の人たちに収入を与えたい」と話していて、私たちはこの村を訪ねてみることにしたというわけです。
驚いたことに、この村の人たちはもともとはコーヒーの生産地であるコーディリエラ山岳地方の出身だといいます。
兄弟がたくさんいて、親から土地を譲り受けてもらえず、何十年も前にこの村に集団移住したのだそうです。
しかし、移住先のこの土地でも寒さに凍えることはないものの、土地は持てず貧しい暮らしを強いられてきました。

牧師さんが信者から借りている家の一室を倉庫代わりに使わせてもらうことになり、山岳地方の農家から集めたまだ水分率の高いコーヒーのパーチメントを借りたジプニーにいっぱいにし、この村にせっせと運びました。
そして、毎日乾燥作業をしてもらったというわけです。

(女性たちは毎日集まって選別作業を行ってくれています)

パーチメントの殻をむくハラーという機械(もみすり機)もこの村に設置することにしました。
そして「働きたい」と意欲のある女性たちを集めて、欠点豆を一粒ずつ選り分ける「選別作業」をやってもらっています。

新しいコーヒー生産パートナーであるカシラガン村。
言ってみればこれもワーキングシェアです。

山でできない仕事は、低地に暮らす人たちにお願いする……コーヒーを通して、さらに多くの人に仕事を作ることができました。

 

4月 乾季に入り山火事発生中!

(エリーさんの家の窓から撮影した山火事)

日本のカレンダーで年度末であることもあり、私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」のスタッフは、
2022年度にアグロフォレストリー(森林農法)による植林プロジェクトで植樹した苗木の生育状態をチェックしに、マウンテン州タジャン町に向かいました。

(スタッフはアグロフォレストリーの植樹地を一つずつまわる)

植林は、フィリピンでは雨季に行われます。
雨季は地域によって多少の違いはありますが、ここコーディリエラ山岳地方では6-10月くらいです。

(残念ながら枯れてしまったコーヒーの苗木)

長い道のりを植樹する場所までトラックの荷台で運ばれてきた苗木たちはへとへとで、かつぬくぬくと居心地の良いビニールポットからいきなり急な山の斜面に植えかえられて、ストレスMAX。
すぐに根っこに水を与えてあげないと、弱った苗木は枯れてしまいます。だから雨季に植林を行うのです。

(苗床では雨季の植林に備えて苗木を育成中)

2022年の雨季にタジャン町の農家の人が植えた苗木の数は18,500本にも及びます。
そのうち1万本強がアラビカ・コーヒーの苗木。
その他の苗木はさまざまな在来種で、共有水源林でコミュニティの人たちみんなで協力して植えました。
今回のタジャン訪問は、植えられて半年たった苗木たちがどんな風に育っているのかを見に行ったというわけです。

(雨が降らずに瀕死の状態の苗木たち)

フィリピンは今1年で最も暑い季節を迎えています。
避暑地として知られるここバギオでも、この時期は日中は25度を超える日もあります。
タジャン町も空気はカラカラ。せっかく半年を生き延びたのに、葉っぱが黄色く変色して瀕死の状態の苗木もありました。

そして、悲しいことにタジャン町では今年、山火事が頻発しています。
先住民族の人たちは伝統的に焼畑農業を営んできたのですが、その火が燃え広がり、何日間も燃え続け、ひどいときには山ぜんぶを燃やし尽くしてしまうことさえあるのです。
山中で起こった山火事では、道路がないため消防車は入れません。

人々はボロと呼ばれる山刀(ナタ)をもって山に入り、火事がそれ以上広がらないように枯れ草などを刈って何とか火を消そうとします。

(山火事のあと)

このプロジェクトに参加している農家の一人のエリーさんからコーヒーの苗木を植えたところのすぐ近くまで山火事が迫っているとメッセージが届きました。
スタッフからも、たくさんの苗木が山火事によって燃えてしまったという報告がありました。
タジャン町の人々は何度も起こった山火事で森が失われ、これから数カ月続く乾季に、飲み水や生活用水が不足することをとても心配しています。

どうか恵みの雨が早く降りますように!

3月 クラファンで支給した乾燥トレイと機材。ただいまフル活用中!

2021年の7月(もう1年半前!)から昨年8月まで、シサム工房と私たち「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」で行ったクラウドファンディング「世界のみんながしあわせになるコーヒー」プロジェクト。
プロジェクトは昨年8月に終了し、皆様からのご寄付で購入させていただいたフィリピンコーヒーをもっとおいしくするための機械や資材は、4つの村の農家さんにお届け済みでした。

コーヒーの収穫は年に一度。
生産地の標高などの気象や地理条件によりますが,北半球に位置するフィリピンでは11月くらいから年明けの1-2月が収穫シーズンになります。
農家さんは毎日毎日、熟した赤い実を少しずつ収穫し,皮をむき,発酵作業を終えて乾燥させます。

そうなんです。あのクラウドファンディングで購入させてもらった乾燥トレイや機器たちは、ようやくいま!この時期に活躍の時を迎えているというわけです。

3月はそろそろ乾燥の仕上げのシーズンです。
雨季が始まる前にどれだけきちんと乾燥させることができるかが,おいしいコーヒーを生み出す上でとても大切なポイントとなります。

ピッカピカだった乾燥トレイや機器たちがどんなふうに使われているのか、4つ村の農家さんたちが送ってくれた写真とスタッフが訪問したときの写真で、ここに紹介します。

まずは、マンカヤン町バリリ村。

パルパー(皮むき機)はこんな屋根付きのかわいいおうちを作ってもらっていました。
鉄パイプで手作りしたスタンドもつけてもらっています。
「スタンドちょっと高くない?」と思いましたが、ルースおばさんが見本を見せてくれました。
「大丈夫。ちょうどいい高さよ」

こちらは、乾燥トレイ。
エルヴァさんのお家では、ナチュラル製法とウォッシュド製法できちんと分けて屋上での乾燥に使っていました。

続いてトゥバ町。
この町は「乾燥トレイは自分たちで作るから材料だけでいいよ」というたくましい男性陣のお言葉があったところでした。
コーヒー栽培に関わる農家の多くが年配の女性というなか、珍しいコミュニティです。
みなさん工夫して乾燥トレイを作ってくれていました。

上の写真はヤグヤゲンさんちのおばあちゃん。
「おかげで乾燥がずっと楽になったよ」

なんと言っても日当たりのいいのは屋根の上。
屋根の上での乾燥作業も支給された乾燥トレイのおかげでずっと効率が上がりました。

乾燥トレイに乗った豆たちを均等にかき混ぜるためのこんなかわいい熊手(レーキ)も手作りされていました。

その日収穫したコーヒーの実の皮を、その日のうちに剥けるようになったのは、おいしいコーヒーを作るための大きな進歩です。

暗闇の中でもがんばります!

次はキブンガン町。標高が高くて天候が崩れやすいキブンガンでは、ビニールハウスをフル活用しています。
写真は、組合代表のアーノルドさんが管理する乾燥用ビニールハウスです。さすがきちんとしています。

 

最後は、ハラー(脱穀機/もみすり機)を支給したカパンガン町です。
乾燥を終えたパーチメント豆が次々と運び込まれています。
組合のマネージャー、ダニーロさんが組合メンバーや息子さんの手を借りて自らオペレーションをしています。
「機械は快調なペースで働いてくれています!」

クラウドファンディング「世界のみんながしあわせになるコーヒー」のプロジェクト概要や報告は、SPINのプロジェクトページや、フェイスブックのプロジェクトページでご覧ください。

2月 コーヒー価格暴騰中

(トゥブライのコーヒー生産者のリーダーの一人ヴィーナさんと反町(2015年))

コーディリエラ山岳地方のアラビカコーヒーは、昨年は凶作でしたが今年はほとんどの農園で収穫量が戻っているようです。
「だったら価格も安定するはず!」と思っていたら、なんと「暴騰している」とスタッフから報告を受けました。

どうやら強引なバイヤーたちがコーヒー生産地を回っていて、まだ乾燥している最中の殻付きの湿ったコーヒー豆(パーチメント)を事前に許可を得ずに袋に詰めて、農園主にお金を握らせるとか(泥棒に近いですよね)。
その価格がちょっと常識外。
まだ殻のついた乾燥していないパーチメント豆の状態で1キロ370ペソ以上と言います。日本円にすると約900円。

これはまだ乾燥しきっていないパーチメント豆ですから、輸出や販売するための生豆(英語ではグリーンビーンズと言います)にするにはまだまだたくさんの工程が残されています。

(シサム工房とのクラウドファンディングで集めた資金で購入したハラー)

計算してみたら900円の乾燥されていないパーチメント豆は生豆になったときには約2倍の価格となっていることになりました。

日本の皆さんのところに届くまでには、さらなる工程がありますね。
日本の自家焙煎コーヒー店が、日本国内のコーヒーの業務用卸の会社から仕入れるコーヒー生豆の価格は平均して1キロ1,500~2,000円くらいと言います。
農家さんからの買取価格がすでにその価格になっているとはあり得ない高価格です。

昨年は収穫量が少なかったため、フィリピン国内でコーヒー豆はあっという間に売りさばかれ、昨年の後半はどこもかしこもコーヒー豆不足でした。
ベトナムから大量のコーヒー豆が輸入され、それらがフィリピン国産コーヒーということで、コーヒー豆屋の店頭に並んでいたといいます。
当然本物の国産コーヒーは希少ということで高値で取引されていました。
そんな状況を踏まえ、今年のコーヒーの収穫を手ぐすね引いて待っていたコーヒートレーダーたちがいたということでしょう。
どんなに高くても質が多少悪くても「ほんものの国産コーヒーは売れるに違いない」と踏んでの、横暴な買い付けだと思います。

(乾燥中の2022-2023の新豆)

さて、フェアトレードでのコーヒー取引を信条としている私たちは一体どうしたらいいのでしょうか?
フェアトレードが推奨される理由の一つは「価格の変動に左右されない。価格が暴落してもフェアトレード基準で定められた最低価格は保証され、生産者の暮らしが守られる」というものです。
しかし「暴落」ではなく「暴騰」したときの対応はなかなか悩ましいものがあります。

フェアトレードで定められたコーヒー生豆の最低取引価格はかなり低く、通常でもコーディリエラ地方の農家が生産するコーヒーはその2倍ほどで取引されてきました。
今回の暴騰は、もちろん日々の暮らしが苦しい農家にとっては嬉しいに違いありません。
しかし、そんな買い付け方をされた粗悪なコーヒー豆が市場に出回ったとしたら、コーディリエラ産のコーヒーの評判は地に落ち、「高くてまずいコーヒー」というレッテルを貼られないでしょうか?
来年またその人は同じような法外な値段でコーディリエラ地方の生産者のところに買い付けに来るでしょうか。

私たちがはじめてフェアトレードの基準に従ってコーヒー豆を日本に輸出したのは2011年。
すでに12年がたちました。
その間、フェアトレードのプレミアム(奨励金)や助成金、クラウドファンディングやご寄付で、コーヒーの品質向上と重労働を軽減するためにさまざまなサポートをしてきました。

(自宅で辛抱強く選別作業を続けるヴィーナさん。最後の生豆の状態まで、自分の手で作業をしたいという。)

今回パートナー農家の一人であるヴィーナさんは、横暴な買い付けにきた人をこう一蹴したそうです。
「あんたたちお金を見せて、私たちが苦労して生産してきたコーヒーもっていこうとしたって、私は売らないよ。
長年にわたって足しげく通って、コーヒーの品質や組織づくりの方法を辛抱強く教えてくれたパートナーがいるんだからね」。

1月  ビデオレポートが届きました!

ビデオレポート第一弾(約4分)
ビデオレポート第二弾(約6分) 

2021年7月から2022年1月まで、シサム工房と私たち「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」が、
クラウドファンディング「世界のみんながしあわせになるコーヒー」を行ったのを覚えていますか?

シサムコーヒーのふるさと、フィリピン・コーディリエラ山岳地方のコーヒー農家さんに、収穫後のコーヒーの実を加工したり乾燥したりするのに必要な機械や資材を寄付するためのクラウドファンディングでした。

シサム工房にはこのクラウドファンディングだけでなく、この数年、様々な形でコーヒー農家さんのサポートにご協力いただきました。
「パルパーチャレンジ」
「#マイecoアクション -今、私たちにできること-」
「私たちのFAIR TRADE + action」

シサム工房スタッフの方々が知恵を絞り、アイデアを出し合い、ディスカッションを重ねて編みだしてくれた「お買い物」だけじゃないサポートのあり方。
どれもこれも斬新で、フェアトレードショップの枠に収まらない新しい形の生産者とのつながり方を提案してくれました。

きっとこのコラムを読んでくださっている方のなかにも、ご協力・ご支援いただいた方たちがいるに違いありません。
改めてお礼を申し上げます。

「世界のみんながしあわせになるコーヒー」プロジェクトでは、ベンゲット州の4つのコーヒー生産地の農家さんを対象としました。
2022年8月までに、それぞれの産地の状況に合わせて機材や資材を購入して配布し、農家さんが収穫したコーヒーの実を加工して生豆にするための大変な労働を軽減することができました。
また、コーヒー豆の品質向上にも大きく役立ててもらっています。

このプロジェクトにはフィリピン側でもボランティアが参加してくれました。
バギオ市のお隣の町ラ・トリニダードを拠点とするプロダクション・カンパニー「SDS Multimedia」です。
主要スタッフは、写真担当&ライターのグラディスさんと、ビデオ担当のライネルさんの二人。

教育省、社会福祉省、観光省、あるいはフィリピン大学などからの撮影の仕事を数多くこなし、多忙を極めている二人ですが、時間の許す限り、このプロジェクト現場に立ち会って撮影をしてくれました。

そのライネルさんが編集してくれた「世界のみんながしあわせになるコーヒー」プロジェクトのビデオ・レポート第2弾が完成しました。
機械や資材配布の報告映像だけでなく、収穫後のコーヒー加工を大変な手間をかけて手作業でする農家さんの様子やインタビューも織り込んでくれて、
こちらのコーヒー生産の現状がとてもよくわかるビデオになりました。

ぜひ、お時間のある時にご覧ください。

ビデオレポート第二弾(約6分) 

第一弾をご覧になっていない方は、こちらもぜひ! ↓

ビデオレポート第一弾(約4分)
▼2022年のおたより▼
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12月 収穫したコーヒーの写真がエルシーさんから届きました

(エルシーさんが携帯で送ってくれた収穫したてのつやつやのコーヒーの実)

昨収穫期(昨年11月から今年1月)が絶望的な凶作であったことは、何度かお伝えしてきました。

その理由を私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」のコーヒー専門家であるリリーさんに聞いてみると、
「コーヒーノキもお休みを必要としているのよ」。
赤いコーヒーの実をたくさんつけるにはたくさんの栄養分が必要で、毎年毎年たくさんの実をつけているとコーヒーノキも疲れてしまって、時々休養を取る必要があるというのです。

京都のコーヒー輸入販売会社「海ノ向こうコーヒー」でアジアなどのコーヒー産地からの買い付けを担当をしている山本博文さんに聞いたところ、「有機栽培で大量のコーヒー栽培をしている東ティモールでも,5-6年に一度大きく収穫量が落ち込む年がある」とのこと。
フィリピンだけってことじゃないようで安心しました。

こちらコーディリエラ山岳地方では凶作の昨収穫期、多くの農家さんが販売用のコーヒーの収穫をあきらめました。
ほんの少しだけついた実を収穫して加工するために、近隣の人に日当を払って雇っても、実ったコーヒーが少なすぎて赤字になってしまうと判断したからです。
家族で1年間に飲む分だけを家族で収穫して、皮むきなどの大変な作業をせず、昔ながらのやり方で皮つきのまま乾燥させただけの農家の人が多かったのです。
そんな悠長ともいえる判断ができるのは、ここ山岳地方ではコーヒー栽培農家のほとんどが野菜栽培と兼業しているからです。

つまりコーヒー栽培は副業的な存在で、野菜栽培が続けられていれば、
コーヒーの木が5-6年に一度「休憩」しても、野菜販売からの収入で何とか暮らしを維持できるというわけです。

(自宅用のコーヒーは皮付きのままザルで乾燥させます。
いわゆる「ナチュラル製法」ということになりますが、これが先住民の人たちの昔からのコーヒーの精製方法です。)

コーヒーだけに収入を頼っていたらどうでしょう?
休みたがっているお疲れ気味のコーヒーノキに化学肥料を与えて、無理してでもコーヒーの実をたくさんつけてもらうしかありません。
そうでないと暮らしが成り立たなくなってしまいます。

無農薬で有機肥料による栽培、あるいはアグロフォレストリーなどの自然栽培は、生産者の健康面、生産地の環境面ではメリットがありますが、
自然の摂理に左右されやすく、生産の安定性という面ではのリスクがあるわけですね。
コーヒーは農作物で工場生産品でないので仕方ありません。

そんなわけでシサムコーヒーとしてお送りできた生豆は前年の3分の1程度になってしまいました。

シサムコーヒー・ファンの皆様にも在庫切れなどでご迷惑をおかけしておりますが、コーヒーノキに自然の摂理に則ってゆっくりとお休みをとってもらったということでどうぞご理解くださいませ。

(近所の人にも手伝ってもらって収穫したコーヒーの実の皮むき作業中。どんな味のコーヒーが生まれてくるかとても楽しみです。)

さて,今年も収穫シーズンがやってきました。
このシサムコーヒーだよりの2月号でその頑張りぶりをご紹介したエルシーさんから、収穫したコーヒーを精製・乾燥している写真が届きました。
お休みから覚めたばかりのコーヒーノキたちはまだフルに活動再開!とまでは行っていないようですが、昨年よりはずっとよさそうです。

「今年はコーヒー収穫に忙しいわよ。CGNからも誰か手伝いに来られない?」と、うれしそうなエルシーさんでした。

11月 コーヒー豆輸出直前の選別作業。欠点豆って何?

(収穫後の精製作業についての講習会では、欠点豆のポスターを農家さんに配布して、選別ワークショップを行います。)

さてさて、日本も急に寒くなってコーヒーがおいしい季節となりました。
長らくお待たせしていた今年の私たちのコーヒーももうすぐお手元に届く予定です。

私たちは環境NGOなので,山岳地方でのコーヒー栽培を推進する目的は「環境保全」と「先住民の生計向上」です。
コーヒー栽培農家の人たちが、手のかかるコーヒー生産に見合う収入を得ることができたら、もっとアグロフォレストリーによるコーヒー栽培が広がり、森林破壊の大きな原因である無計画な農地拡大が減少するはずです。

農家の人にたくさんのお金をお支払いをするには、できるだけたくさんの仕事を農家さんにしてもらうことです。

つまり、農家は収穫したばかりの赤い実(チェリーと呼んでいます)を販売するのではなく、その赤い実の皮をむき、乾燥させ、パーチメントと呼ばれる殻をはがして、輸出する「生豆」の状態にまで自分たちの手ですることで、同じコーヒーからより多くの収入が得られるわけです。
ですから、私たちは農家にできるだけ生豆の状態まで作業をしてもらいたいと思っています。

さて、その生豆生産の精製・加工プロセスのいちばん最後が「欠点豆の選別」です。
なんと農家さんが一粒ずつ手で欠点豆を選り分けているのです。

(講習会ではおじさんたちも真剣に選別の練習。)

SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)では、「スペシャルティ」という高品質のコーヒーであることの条件の一つとして、350gの生豆の中に、「Primery(プライマリー)欠点豆」がゼロであること、「Full (完全な)欠点豆」」が4粒以下であることをあげています。
つまりほんの一粒の「欠点豆」がコーヒーの味に大きな影響を与えるってことですね。

ところで、いったい「欠点豆」ってなんでしょう?

SCAAによると絶対に許されない「プライマリー欠点豆」は、
・黒く変色した豆
・発酵豆
・虫食い豆
・カビ豆
それに、石とか小枝とかの異物だそう。

それに続くやっぱり味に影響する取り除いてほしい「欠点豆」は、
・部分的な黒く変色した豆
・部分的な発酵豆
・パーチメント豆
・中身がない豆
・欠け豆
・割れ豆
・未成熟豆
・貝殻豆
・しぼんだ豆
・軽度の虫食い豆 などだそうです。

(欠点豆とはこんな豆。Toper CoffeeのWEBサイトより)

書いているだけでめまいがしてくる種類の多さです。
それぞれの欠点豆がコーヒーの味にどんな影響を及ぼすかは、スペシャルティ・コーヒーショップのサイトなどでも紹介されていますので、興味のある方は探してみてください。

私たちが農家向けに行なっているコーヒーの収穫後の精製・加工セミナーでも、この欠点豆の選別には特に力を入れています。
焙煎したコーヒーの微妙な味の違いを農家の人たちが評価するのはなかなか難しいですが、味に大きく影響を与える欠点豆の選別作業は、農家にできる大きな品質向上作業のひとつというわけですね。

(シサム工房へ出荷直前の選別作業です。選別はおもに女性たちの仕事です。)

欠点豆ができてしまうのは栽培や精製過程で何らかの原因があることも多く、農家の人たちにこのたいへんな作業を経験してもらうことが、栽培や精製の過程で欠点豆を減らすための努力をしてもらうことにもつながっています。

 

10月 植林シーズンが間もなく終わります

(和気あいあいの植林ツアー参加者たち。)
Photo by People Place Asia
www.peopleplacesasia.com

植林にシーズンがあるって知っていますか?

毎日のように雨が降る雨季(6-10月)が、山に木を植えるのには最適なのです。
ちなみに、ここフィリピンは四季がなく、季節は雨季と乾季しかありません。

植林とは、ビニールポットで育てられた苗木を、自然の中の土(こちらの場合は急峻な山肌のことが多いです)に
植え替えることなわけですが、植え替えられた苗木たちの中には、環境がいきなり変わって、
ストレスを抱えて枯れてしまうものもあります。
新しい環境に根を張っていいかどうか思案しているのか、植え替え当初はしょんぼりしおれている苗木がほとんどです。

恵みの雨が降って、植え替えられた山の土がしっとりと湿り、気持ちよさそうな山の風がまだ若い葉を撫でてくれたら、苗木たちも「新しい環境でがんばるぞ!」と張り切って根を張り、枝を伸ばし、雨季の合間に顔を出す太陽の光を十分得られるように葉っぱを広げてくれることでしょう。
だから、山への苗木の植え替えは、雨季に限るのです。

Photo by People Place Asia
www.peopleplacesasia.com

コーヒーの木は地球上の赤道付近、北回帰線と南回帰線との間のコーヒーベルトといわれる地域で育つといわれています。
コーヒーの主な消費国である欧米や日本は、コーヒーベルトに入っていません。
だから、コーヒーを毎日飲んでいる人、はたまたコーヒーを毎日販売しているカフェの店員さんたちの多くも、コーヒーの木を見たことがないというわけです。

中には
「コーヒーって木なの?」
「えっ?コーヒーの実って茶色じゃないの?」
なんていう声も聞きます。

実はコーヒーベルトに入っている生産国であるフィリピン国内でも同じです。
街のおしゃれなコーヒーショップのかっこいいバリスタたちにも、コーヒーの木を見たことがない人が多いのです。

https://www.circus-coffee.jp/fcblog/98300.html より)

「植物としてのコーヒーの木を見てもらいたい」
「コーヒーの木を植え育てている農家さんの、それはそれは大変な仕事を少しでもいいから体験してもらいたい」
という思いから、私たちは毎年、コーヒー体験ツアーを企画しています。
いちばん人気は収穫期の「収穫ツアー」ですが、雨季の「コーヒー植林ツアー」もなかなかの評判です。

自分が植えたコーヒーの苗木がいつか一杯のカップのコーヒーになることを想像しながら植えるのは、コーヒー好きにはたまらないことですね。
また、コーヒー農家の人たちと一緒に栽培の苦労話を聞きながら土にまみれるのも、貴重な時間になります。

(人気コーヒーショップのバリスタたちも、苗木用ポットの土入れ作業を手伝ってくれました。)
Photo by People Place Asia
www.peopleplacesasia.com

今年の雨季にも、私たちは3回の植林ツアーを企画しました。
バギオから約2時間のサーフタウンにある人気コーヒーショップ「El Union Coffee(https://elunioncoffee.com) 」のバリスタやロースターたちも、ショップを閉めて全スタッフで参加してくれました。
ここバギオ市の英語学校で学ぶ日本人生徒さんたちも貴重な体験をしに来てくれました。

コーヒーベルトも動きつつあると聞いたり、台風シーズンもずれていていつ来るかわからない状態が続いていて、気候変動の影響に油断なりませんが、どうか、ツアーに参加したみなさんが植えたコーヒーが、すくすくと育ち、5年後のシサムコーヒーとなりますように!

(バギオ市内で量り売りのショップ(Bulk Shop)をやっていたティンさんは、お子さんと一緒に参加してくれました。)
Photo by People Place Asia
www.peopleplacesasia.com

9月 おいしさに正しさはあるのか?
リリーさん、Qグレーダーの更新試験に合格!

コーヒーの鑑定士といわれる「Qグレーダー」というライセンスがあるのをご存じですか?

米国のスペシャルティコーヒー協会(SCA)が定めた基準・手順に則って国際機関であるコーヒー品質協会(Coffee Quality Institute=CQI)が認定したコーヒーの香味を評価することのできるスペシャリストのことです。
世界で4000人くらいの人がこの資格を持っているといいますが、なかなか試験に合格するのは難しく、かなりの難関といわれています。

(コーヒーの香味の評価はスプーンでコーヒーをすくって「ジュルッ」っと音をさせて口の中に広げ、舌全体を使って甘みや酸味や塩味を評価する。写真はリリーさん。)

実はコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)には、Qグレーダーの資格を持つスタッフがいます。
我らがコーヒーリーダー、リリー・ハミアスさんです。

リリーさんがQグレーダーのライセンス・テストに合格したのは2017年。
ライセンスの有効期間は3年で、3年ごとに「キャリブレーション Cariblation」と呼ばれる更新テストを受けなければなりません。
リリーさんの更新テストは2020年に行われる予定でしたが、新型コロナウィルスの感染拡大でテストは延期に延期を重ね、2年遅れてようやく実施となりました。

そしてリリーさん、見事合格となり、ライセンスの3年延長が認められたのです!

(このセミナーではCQIインストラクターの資格をもつトーマスさんをネグロス島から招へい。生産者の代表が参加して焙煎とカッピングの講習が行われた。みんな真剣。2018年。)

実はこのQグレーダーの試験を受けるにはその前に5日間くらいの講習会を受けねばならず、その費用はかなり高額です。
ドルで2000ドルくらいです(日本での受講だと35万円くらいすることもあります)。
この額は、CGNの若手スタッフの給料の半年分以上です!
はっきりいって、フィリピンにおいては、小さなコーヒーショップやコーヒー農家の人がおいそれと支払える金額ではありません。
小さな環境NGOであるCGNにも手の届かない金額でした。

それでも私はスタッフにこのライセンスを取ってもらいたいと強く思っていました。

(今年6月に行ったトゥバ町での農家を対象としたカッピング講習会。)

「コーヒーのおいしさ」は一つじゃありません。
おいしさに正解はありません。
結局、誰もが自分が「おいしい」と思ったものが「おいしい」わけです。

その基準は、その人が今までの人生で何を食べてきたかということによるし、もちろん生まれ持った感覚にも左右されます。
どんな生活をしているかにもよりますよね(疲れたら甘いものがほしいとか…)。

でも、私たちがプロジェクトで栽培してきたコーヒーを世界の人に飲んでもらおうと思ったとき、海外のコーヒー愛好家の人たちがどんな基準でコーヒーを評価しているかを知る必要があると思ったわけです。

農家の人に「品質をあげて”おいしい”コーヒーをつくりましょう」といって、”ああせい、こうせい” と言ってても、農家さん自身に「ああ、こういうのが外国の人にとっては”おいしい”のか」と実感してもらわないと、モチベーションは上がりません。

農家さんが普段飲んでいる、真っ黒になるまでフライパンで焙煎して、臼と杵(また出ました!)で砕いて、やかんでぐつぐつ煮出し、たっぷりお砂糖を入れたコーヒーとは、まったく違う味のコーヒーを海外の人は好むのだ、と知ってもらわねばです。

そこで、コミュニティで土づくりからコーヒー栽培の指導をすると同時に、私たちの小さなショップで出すコーヒー焙煎も担当していて、「もうコーヒーなしの人生はありえない」というリリーさんに、Qグレーダーのテストを受けてもらうことになったのです。

講習&試験の受講費用には、CGNのパートナーである日本のNGOが助成申請をしてくれていたプロジェクトの一部を充てさせてもらえました。
たくさんの人が、このQグレーダーの試験を受けたいけれども資金的に無理という中で、私たちはとても恵まれていたといえるでしょう。
試験内容は、なかなか難しいということで、CGNのコーヒープロジェクトをサポートしてくれている内外のスペシャリストの方々が惜しみなく準備に協力してくれました。

(2020年パンデミックでトックダウン寸前のカパンガンでのカッピング講習会。)

このように多くの方々の協力を得て取得できたリリーさんのQグレーダーライセンスは、彼女一人のものではなく、コーディリエラ地方でコーヒーを栽培しているすべての農家さんのものです。

CGNでは、毎年農家さんから買い付けたコーヒー豆を焙煎して、再び生産地に持っていき、農家さんと一緒に味比べをやります。たいていの農家さんは「砂糖の入っていないコーヒーなんて飲めたもんじゃない」という苦い顔をしますが、そんな中から少しずつコーヒー好きの人材が育ってくれるものと思っています。

Qグレーダーの試験の内容に関してはこの「プロコーヒー」というサイトに説明がありました。
ああ、私には絶対無理です~~。
https://acoffeeperson.com/q-grader/

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8月 WFTO(世界フェアトレード連盟)の監査に通りました!

シサム工房は昨年7月に世界フェアトレード連盟(WFTO)の正式メンバーになりました。

シサム工房がWFTOのメンバーとなるためには、会社がWFTOが定めている10の指針に則って運営されているかという監査と合わせて、仕入れている海外の様々な商品もまた10の指針に則って生産されていることをチェックする監査も必要でした。

シサム工房はパートナーである海外の生産者団体の中から、監査対象の商品の一つとしてシサムコーヒーを選んでくれました。

そして、昨年、マニラからWFTOの監査人が私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」と輸出を担っている社会的企業「カピタコ・ソーシャルエンタープライズ」を訪れることになっていました。

しかし、新型コロナウィルスの感染拡大の真っ最中で、マニラ在住の監査人が私たちの事務所があるバギオ市に入るのも難しく、さらに奥のコーヒー生産地のコミュニティに行くのはもう絶対無理、という日々が1年以上も続きました。
そして、とうとう今年2月に感染が落ち着いたのを見計らって監査人がやってきました。

(コーヒー農園をチェックする監査人)

そして待つこと3か月。とうとう「合格!」という連絡がシサム工房に届きました。
シサムコーヒーが、フィリピンの生産者、そして生産者と直接つながり品質のチェックや集荷・輸出を担当する私たちNGOと社会的企業、そして輸出先で日本国内での販売を担うシサム工房まで、シサムコーヒーに関わるすべての人たちが「フェア」にビジネスを行っているという”お墨付き”をもらったというわけです。

(2014年コーヒー生産の現場を視察するシサム工房の副代表・人見)

小さな事のようですが、それは大きな意味があります。

私たち生産地のNGO&社会的企業にとっての「フェア」が、商品の販売先である海の向こうの取引先にとって「フェア」と受け取ってもらっているかどうかは見えないところがあります。
ましてや山の村の生産者の人たちにとっては、海の向こうの人が言っている「フェア」が自分たちにどんな風に作用するのか、まったく想像がついていません。

(2017年 フェアトレードセミナーの講師として代表の水野が生産地を訪問)

「フェア」と言葉にするのは簡単ですが、みんなが納得する「フェア」を確認し合うのは容易なことではありません。
監査のプロセスでも、本当にこの質問で「フェア」が証明できるのだろうか?という疑問も正直ありました。

国によって、慣習も違うし、暮らしも違う。もちろん物価も違います。
国の中でも都市部と田舎では、日本以上に格差が大きいのが、ここフィリピンを含む多くの発展途上国の現状です。

同じ物差しで測ることに無理があるのも否めません。

今回のWFTOの認証取得のためのプロセスは、生産者である農家から輸入しているフェアトレード会社・シサム工房の人たちまで、生産に関わるすべての人が、それぞれ「何がフェアか」を考え、再確認し合う場になったと思います。

さまざまな疑問について話し合い、理解する努力をし、納得しあったうえで「フェアトレード」であることを確認し合ったということなのです。
このプロセスこそが、この認証取得のいちばんの価値だったのではないかと思っています。

(監査人、CGN&カピタコのスタッフとトゥブライ町の農家さん)

そして、もちろん、お客様に「本当にフェアな商品」ということをマークを通して
一目で理解してもらえるようになったことが最大のメリットですね!

最後に改めてWFTOが掲げるフェアトレード商品を扱う団体が守るべき10の指針を紹介します。

1. 生産者に仕事の機会を提供する
2. 事業の透明性を保つ
3. 公正な取引を実践する
4. 生産者に公正な対価を支払う
5. 児童労働および強制労働を排除する
6. 差別をせず、男女平等と結社の自由を守る
7. 安全で健康的な労働条件を守る
8. 生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する
9. フェアトレードを推進する
10. 環境に配慮する

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7月 パーチメントを剝く機械・ハラ―を届けてきました!

皆様にご協力いただいたSPINクラウドファンディング「世界のみんながしあわせになるコーヒー」(https://spin-project.org/projects/73)で、ハラー(あるいはデハラー)と呼ばれる機械を購入してカパンガン町の「ダイヨコン農家組合」に届けてきました。

「ハラーって何?」と思う人もいると思いますが、お米で言う”もみすり機”です。

(コーヒー豆の構造 https://www.cuisinart.jp/sp/fcc_slurp/column/210617_05.html

コーヒーの実が赤い「チェリー」と呼ばれるかわいらしいフルーツであることはご存じの方も多いと思います。コーヒー豆というのは、このフルーツの種ということになりますね。
他の多くのフルーツの場合、私たちはフルーツの皮と種の間にあるジューシーな果肉の部分をおいしくいただくわけですが、コーヒーの場合、目指すは一番中にある「種=豆」。

収穫した赤いチェリーから種=豆を取り出す作業を「精選」とか「加工」などと呼んでいます。その方法にもいろいろとあって、そのやり方がコーヒーの味に大きな影響を与えます。
(精選方法についてのお話はまたの機会に譲ります)。

その精選過程の最後のステップであるパーチメントと呼ばれる殻を剥く機械がハラーというわけです。

(パーチメントコーヒー)

コーディリエラ山岳地方のほとんどの農家や農業組合はハラ―を持っていません。

昔ながらの木や石製の臼に乾燥したパーチメントコーヒーを入れ、中の豆をつぶさないように気をつけながら杵で搗(つ)いてパーチメントを割ります。
そして、臼の中身をざるに移してパーチメントを吹き飛ばすという作業をしているのです。

1回に搗ける豆の量が1キロとして、50キロの生豆を作るのにこの作業を50回もすることになるのです。この気の遠くなるような重労働がつらすぎて、コーヒー生産をあきらめる人もいるくらいです。

このクラウドファンディングでは、生産量が上がってきている二つのコーヒー生産地にハラ―を購入し、農家の臼と杵による重労働の負担を減らしてあげようというのが目標の一つです。

しかし、ここコーディリエラ地方にはハラ―を販売している会社がありません。

そこで、遠くミンダナオ島ダバオ市にある農業機械製造&販売会社に発注をすることにしました。
ミンダナオ島ではコーヒー栽培がブームになっているらしく、この農業機械会社はハラ―の注文が殺到していて製造までなんと4か月待ち!

ようやく、その350キロもするその機械が海を渡ってやってきました。
バギオから約2時間半、山間部の道路を通ってサグボ村の組合事務所に到着。
何とか人力でトラックから下して、サンプルのパーチメント豆で試運転をしましたが、なんということでしょう。
サンプル豆は無残にもすべて割れてしまいました。スタッフ一同うなだれて帰路につきました。

インターネットのあるバギオ市に戻り、機械製造会社に問い合わせをして、日を改めてサグボ村を再訪。機械の微調整をして再度テスト運転したところ、あれよあれよという間に100キロのパーチメントを剥く作業が終了しました。

(喜びを隠しきれないブリジータさん)

試運転に立ち会ってくれた組合メンバーのブリジータさんはこう言います。
「昨年は250kgのパーチメントを剥く作業を大きな臼と杵を使って5人で行い、5日かかったのです。しかも、13kgの豆が割れてしまい、無駄になりました。こんなにあっという間に100キロの豆の作業が終わるなんて信じられません!」
と喜びを隠しきれません。

今年は凶作でこの機械が活躍する場が限られていましたが、来年以降の精選作業に大活躍してくれること間違いなしです。

ご協力いただいた皆様、どうもありがとうございました。
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6月 気候正義ってなに?

毎年5月の第2土曜日は世界フェアトレード・デー。今年のテーマは「Climate Justice」でした。
日本語にすると「気候正義」となって、ちょっと固い感じで、よくわからなくありませんか?

(WFTO=世界フェアトレード連盟のHP https://wfto.com/fairtradeday2022/より)

いま、世界中の人たちが「1日も早く何とかしないと地球が危ない!」と言っている気候変動による地球温暖化は、先進国の人たちが環境破壊などお構いなしに人間にとっての便利さや豊かさのみを追及して開発を行ってきたのが原因です。
それなのに、異常気象や自然災害の影響を最も強く受けているのは、とくに農業や漁業などに携わっている人たちです。
そして、災害対策などに予算を割く余裕がなくガバナンスも弱い、いわゆる発展途上の国々には、気候変動によってますます貧困が進んでしまっている人たちも多くいます。

現在、まだ世界の5人に1人(13億人)が電気のない生活をしているそうですが、温室効果ガス排出トップ10の国の排出量は世界の7割に達するそう。

不公平だと思いませんか?

先進国に暮らす人たちが気候変動を食い止めるための行動を起こして、気候変動によって悪影響を受けている途上国の人との間の「不公平さ」を正しましょうというのが、「Climate Justice=気候正義」というわけですね。
途上国で環境に配慮して生産された商品を適切な値段で継続的に購入し続ける「フェアトレード」は、その「不公平さの是正」に貢献できるのです。

わたしもフェアトレード月間にその普及にお役に立てたらと、石川県野々市市にあるオーガニック&フェアトレードショップ「NOPPOKUN」(https://noppokun.co.jp) が企画してくれたオンライン・トークイベント「コーヒーがとってもおいしくなる話 ~「命の源」森をつくるフェアトレードコーヒー」に参加させてもらいました。

ここフィリピンのコーディリエラ山岳地方の人たちも、気候変動の原因とされる化石燃料によるエネルギーをあまり使わないで生活してきた人たちです。
しかし、気候変動の影響と思われる大雨や巨大台風の発生で土砂崩れなどの大規模な自然災害が頻繁に起こっています。
また、15年間農家とともに試行錯誤をしながら頑張ってきたコーヒー栽培も、昨収穫期は考えられないような不作となりました。農家の人のなかには、せっかく安定した収入に結びついてきていたコーヒー栽培をあきらめる人も出てきています。

(トークイベントの発表スライドより)

今回のトークには、シサムコーヒーを販売してくださっている日本全国のフェアトレードショップのみなさんも参加してくれました。オンラインでのイベントのいいところです。

直接ショップの人やシサムコーヒーを飲んでくださっている方々に、「コーディリエラ地方で起きている気候変動の影響」「昔ながらの先住民の暮らしとその豊かさ」「私たちがなぜアグロフォレストリーをすすめているか」などを、写真の紹介とともにお話しすることができてとてもうれしかったです。
オンラインとはいえ、参加してくださった人たちがとても熱心に耳を傾けてくれていたのが伝わってきました。

先進国が率先して行うべき「Climate Justice」ですが、気候変動の解決は先進国の人の努力だけではむずかしいのも確かです。
途上国の人たちの協力がなければ実現しません。

お互いに情報交換をし、関心と理解を高めて、ともに地球環境の改善のための手を取り合っていくことが大切だと実感しています。

 

5月 山岳民族の郷土料理を紹介するイベントに参加

シサムコーヒーはフィリピンのルソン島北部のコーディリエラと呼ばれる山岳地方で栽培されています。
私たちのパートナーであるコーヒー農家はベンゲット州に多く、その人数は全部で300名くらいに上ります。

コーディリエラ山岳地方に住んでいる多くは先住民と呼ばれる人たち。
まとめて「イゴロット」と呼ばれることもありますが、イバロイ、カンカナイなど、話す言葉の違いによって、様々な民族に分類されています。

多様なのは言葉だけではありません。民族衣装の手織り布に織り込まれる模様も民族ごとに違います。そして、もちろん食文化も違います。

そんなコーディリエラ山岳地方の様々な民族の食文化を紹介するイベント「マンガン・タク(Let’s Eatという意味のイロカノ語)」が、バギオ市のライト公園で始まりました。
私たちのNGOとコーヒーショップも招待され、おいしい山岳地方産のコーヒーと伝統スイーツのブースを出店中です。

このイベントが最初に行われたのは2019年。
遠くイタリアのスローフード協会が、フィリピン観光省と共同で開催しました。

それまで、多くの先住民は、自分たちが普段食べている、いわゆる「郷土料理」が、街に暮らす人や海外の人の関心を集めるなんて思いもよりませんでした。
世界中のあらゆる都市で目にすることのできる ”ファスト” フードショップのハンバーガーが、先住民の人のあこがれの食べ物だったのです。

ところが「マンガン・タク」イベントでは、森から採れる山菜、川から獲れた魚、雄大な棚田で先祖代々受け継がれ大事に育てられてきた古代米(赤米、紫米)などを使った料理やお菓子が主役になりました。
そして、それら “スロー” フードが都市部や海外からの観光客を惹きつける素晴らしい文化であることを知らしめたのです。

(参加者みんなに分けられたワットワット)

今回の「マンガン・タク」イベントのテーマは「ワットワットWat Wat」。
「ワットワット」とは、先住民の村で儀礼や祭りの際に供儀された豚のスライス肉のことを言います。
シャーマンが祈りとともにつぶした豚は大鍋でシンプルに塩とともに煮込まれ、その肉は小さくスライスされて、コミュニティのすべての人に分けられるのが先住民の伝統です。

「マンガン・タク」イベントにはアパヤオ州やカリンガ州などかなり遠くからも様々な民族が参加し、オープニング式典ではワットワットを参加者のすべての人たちがともに食しました。

(もち米やキャッサバ芋、ココナツ、バナナなどを使った伝統スイーツ。バナナの葉っぱで包まれてゼロウエストなお菓子です)

私たちのブースでは、ベンゲット州各地のコーヒーとともに、コーヒーにぴったりの伝統の手作りスイーツを提供しています。
イベントは、先住民の人たちが自分たちが守ってきた食文化、そしてコーヒーの味を誇りに思える素晴らしい機会となっています。

 

4月 2年ぶりにコーヒー好きのインターンがやってきました!

2月からあれよあれよという間に、フィリピン全土で新型コロナウィルスの感染者が減り、あっという間にマスク以外は通常に戻っているフィリピンです。

「待ってました!」とばかりに、私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」にも、日本人インターンがやってきました。

金沢大学在学中の古瀬貴一君(こちらでの呼び名は”キイチ”)は、単位をさっさと取得し、コロナ禍をものともせずに休学してカナダのカルガリ―に短期留学。
今年1月からはCGNでのインターンを希望していましたが、フィリピンでは新型コロナの感染がピークで、観光(短期滞在)ビザでの入国ができませんでした。

それでもキイチ君はあきらめません。
カルガリーの「フェアトレード・カルガリ—」という団体でボランティアを経験してフェアトレードに関する知識も身につけ、
フィリピンが外国人の観光ビザでの入国を受け入れ始めたというニュースを聞いて、さっそく飛んできてくれました。

なんで世界に数あるNGOの中で、そうまでして私たちのNGOかって?
そう、キイチ君の夢は、「エシカルなコーヒーを世界に広め、小さな農家の暮らしを守る」ことなのです。
だったらCGN以上のNGOはないかもしれませんね(自画自賛(笑))。

もともとキイチ君は、大学に通いながらスターバックスで3年半もバイトを続け、社内のコーヒー知識に関する資格テストにも合格している筋金入りのコーヒー好き。
コーヒーの生産地の実情を自分の目で見て、農家の暮らしを知り、コーヒーを通して世界の課題を解決するために自分にできることを探し考えていきたいというのが、キイチ君のCGNインターンとしてのビジョンです。

(市内の人気カフェHatchでのコーヒーワークショップに飛び入り参加)

ところで、ここバギオ市では感染者が減ったことから、最大のお祭り「パナグベンガ(フラワー・フェスティバル)」が3年ぶりに開催されることになり、観光客の人数制限も撤廃されました。そして昨年から始まった「モンタニョーサ映画祭」も同時に開催決定。
2年間この日を待ちに待っていたバギオの観光業! 町は多くの人であふれ、一気に活気づいています。

オンラインでの販売に力を入れて何とかしのいできた私たちのコーヒーのフィリピン国内販売事業も、この辺で勢いをつけたいところです。
やはり「コーヒー」と「カルチャー」は切っても切れない関係ということで、町の中心の公園内に設置された映画祭の屋外上映会場で、小さなコーヒーブースを設けることにしました。

そう、バリスタ経験も豊富なキイチ君にぴったりの活躍の場が待っていたっていうわけです。
バギオ到着の翌日には、私たちのパートナーであるコーヒースタンド「NEST」スタッフによるコーディリエラ・コーヒーの淹れ方指導が始まり、
その次の日にはフィリピンのバリスタ・チャンピオンによるテイスティング・ワークショップに参加する機会に恵まれ、さらにその翌日にはさっそくコーヒーブースにてバリスタ・デビューを果たしました!

(モンタニョーサ映画祭の屋外上映会場に設置したブース。左がキイチ君)

映画好きは、コーヒー好き。
じっくりゆっくりマニュアルのドリップとエアロプレスで淹れるコーヒーは、3年ぶりのお祭りに熱狂する人々にちいさな憩いの時間を提供しました。

CGNとKapi Tako Social Enterpriseのメンバーも、2年ぶりに万難を排してやってきてくれた日本人インターンの来比に元気づけられています。
すーっと新しい風が吹き込んだみたいで、スタッフみんなのやる気アップにつながっています。

これから、シサム工房へお送りするコーヒーの集荷が本格化します。
残念ながら収穫期は終わっていますが、キイチ君は農家からのコーヒー豆の集荷から輸出までの行程、そして手作り感あふれる私たちの国内販売やオンライン販売のプロセスを経験してくれます。
何を学んで、どんな新しいアイデアを彼なりの視点で提案してくれるか楽しみですね。

(フィリピンコーヒー抽出トレーニング中)

キイチ君のインターン体験記はCGNのインターン・ブログで読めますので、ぜひ!
https://cordilleraintern.tumblr.com/

 

3月 世界フェアトレード連盟(WFTO)の監査がありました

乾燥施設の抜き打ち調査。「洗濯物は別にしてねぇ」と指導を受けました~~。

シサムファンの方々は、昨年にシサム工房が晴れてWFTOの正式メンバーになったことはご存じかと思います。
(その長い道のりについてはこちらの記事でhttps://sisam.jp/information/293176/

フェアトレードはそのまま訳すと「公正な貿易」となります。
「フェア=公正」と言葉にするのは簡単ですが、何をもって「フェアか」の判断するかはなかなか難しいと思います。
自分が「フェア」と思っていても、もしかしたら取引相手の人はそう思っていないかもしれません。
そこで、フェアであるかを判断する「評価基準」が必要になり、「認証」というシステムがあるわけです。

こちらは国際フェアトレードラベル機構の認証ラベル

フェアトレードの国際基準は大きく2つあります。
国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)が定める「国際フェアトレード基準」と、
フェアトレード団体のネットワーク「世界フェアトレード連盟」(World Fair Trade Organization)=WFTO」が掲げる「10のフェアトレード指針」です。

前者は製品に関する認証で、後者は組織に関する認証といった方がわかりやすいかもしれません。

シサム工房はWFTOの10の基準に関する審査を受けてパスし、正式に認証されたメンバーとなりました。
そして、シサム工房の取引先である私たちも、その基準を満たしているかどうかのチェックを受けたというわけです。

国によって物価も違うし、文化も違うし、生活習慣も違う。。。

そういった世界中のすべての国々に共通する「フェア」の評価基準を設けるのは一筋縄では行きません。

基準を定める認証団体の人たちの苦労は大変なことだと思います。

トゥブライ町アンバサダー村でのインタビューの様子

今回のコーヒー生産地でのWFTOの審査は、まず生産者の人たちが十分に栄養を得て日常生活を送るのに必要な費用についてのアンケート調査から始まりました。

そのためには、生産者の人たちの食生活を知る必要があり、フツーの(またこのフツーの判断が難しい…)農家の人が何を食べているかを調査します。
「週に何回、何グラムくらいお肉を食べますか?」みたいな質問から始まるわけです。
これが、フェアな支払いであるかを判断するかの「初めの一歩」というわけです。

認証に至るまでのプロセスは、こんな気の遠くなるようなステップを踏んでいるというわけですね。

トゥブライ町バアヤン村でのインタビュー

さて、そういったプロセスを経て、今回ようやく最終ステップである監査人の生産農家へのインタビューに至りました!
コロナのせいで延期に延期を重ねて1年以上遅れ、ようやくマニラから監査人がコーヒー生産者のコミュニティに入れたというわけです。

シサム工房と生産者の間にいる私たち「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」のスタッフはインタビューに公正さを保つため立ち会わせてもらえず、いったいどんなやり取りが行われたかはわかりませんが、インタビュー会場からは笑い声が聞こえてきましたから、審査はなごやかに行われたと思います。

WFTOオランダ本部の審査を経て結果は数か月以内にはわかるはずです。
みなさん、お楽しみに!

 

2月 エルシーさん、がんばる

(エルシーさんが自力で作った乾燥用ビニールハウス。菊の苗場も兼用。)

「今年の収穫はどんな様子だろうか?」
「農家さんはパンデミック下で元気にしているだろうか?」という様子伺いと、
「今年もコーヒー豆を購入させていただきますから安心してくださいねえ」というご報告に、
トゥブライ郡のエルシーさんを、実に3年ぶりに訪問しました(スタッフは何度か訪問しています)。

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)はトゥブライ郡のこの地域で
2016年から2019年の3年間、神奈川県のNPO法人WE21ジャパンとJICA横浜の協力で、コーヒーの品質向上とコーヒー農家の組織強化のプロジェクトを行いました。
そのときに私たちはエルシーさんの存在を知りました。

エルシーさんは、このエリアではもっともたくさんのコーヒーの木を持っている農家の一人です。
エルシーさんの土地に生えているコーヒーノキは亡くなったご主人の提案で植えたものだそうです。
子供たちはすでに巣立っていて一人暮らしのエルシーさんは、ご主人が遺したコーヒーノキに手を焼いていました。

「収穫期に一度に実をつけるすべてのコーヒーチェリーの収穫を一人で行うのは無理なんです。その収穫したチェリーを加工するのも一人じゃ無理。
近隣の若者に頼んでコーヒーを収穫してもらいますが、日当を払うお金がないので収穫したコーヒー豆で支払っていますが、手元に残るコーヒーの実は少しだし、市場では買いたたかれてコーヒーから得られる収入はわずかなんです。」

当時CGNのプロジェクトで開催したセミナーに参加したエルシーさんは、品質のいいコーヒー豆を作れたらちゃんと収入になると知って、俄然やる気を出しました。
しかし、いかんせん軍資金がありません。
つまり、収穫や加工をしてもらうアルバイトに支払うお金がないのです。

(2018年暮れ、リリーさんの鶴の一声「私たちが手伝います!」で、わけのわからないまま、毎日、収穫に駆り出される。左端は遊びに来たコーヒー好きの版画家の田中彰さん。)

そこで、CGNのコーヒー生産地担当のリリーさんが立ち上がります。
「私たちが手伝います!」
「エルシーさんの自然豊かな土地にほかの木々をシェイドツリー(日陰樹)としてワイルドに生育しているコーヒーチェリーが収穫されずに放置されているのはもったいない!」
リリーさんは、CGNインターンの日本人の若者や暇そうにしている近所の若者やらを連れて、年末年始の超多忙なときに毎日エルシーさんの農園に出向きました。

「コーヒーの収穫を体験したい」とたまたま来ていた日本人アーティストも、容赦なく現地に向かう車に同乗させられ、朝から暗くなるまで収穫と加工作業を手伝いました。
もちろん私も足手まといになりながら(笑)、収穫サポート。
そして、その年のエルシーさんのコーヒー豆をきっちりすべて買い取らせていただきました。

(収穫の手伝いをして、すっかりエルシーさんと仲良しの反町(2018年末))

あれから3年。エルシーさんは笑顔で私たちを迎えてくれました。

「今年は裏年で収穫は少ないのよ」と残念そう。
そして、「新しくコーヒー豆の乾燥場を拡張したのよ」
と自慢げに乾燥場として使っているビニールハウスを案内してくれました。

コーヒーの収穫は1年に一度ですから、乾燥も1年に1回のみ。乾燥施設を使うのも2か月ほどになります。
「だから、それ以外の時期にも使える多目的ビニールハウスにしたのよ」とエルシーさん。
コーヒーを乾燥する棚のわきには菊が植えられていました。

「資金はね。コーヒーをCGNに販売した1年目の支払いを使ったの。2年目の支払いで、豚舎も作り始めたのよ」
ビニールハウスの隣には、コンクリートの立派な豚舎が建設中でした。

うれしいですねえ。
NGOであるCGNのサポートは、農家さんが自力でコーヒーからの収入を生かして自力で生きていけるための弾みをつけるためのものなのです。
その後はそれぞれの農家さんがコーヒー生産をきちんとビジネスとして成立させて設備投資も収入の一部から自分でして、自立してくれるのが何よりもうれしく感じます。
そのためのフェアトレードです。

(頑張っているエルシーさんを見てリリーさんも満面の笑顔。左が建設中の豚舎。)

 

1月 クラファン目標達成ですが・・・

シサム工房とコーディリエラ・グリーン・ネットワークが((CGN)行ってきたクラウドファンディング「世界のみんながしあわせになるコーヒー」は、第二フェーズを2022年1月7日に終了いたしました。

第一、第二フェーズを合わせて209名ものソーシャルペアレンツ(寄付者)の方から合計2,718,157円の支援をいただき、
目標額の2,650,000円を達成することができました。

また、64名のレコメンダー(推薦者)の方々からあたたかい応援メッセージをいただきました。
さらに、シサム工房が昨年実施しました「パルパーチャレンジ」で
シサムコーヒーを店舗やオンラインショップでコーヒーを購入することでサポートいただいた方々もたくさんいらっしゃいました。

新型コロナウィルスの感染がなかなか収まらない不安な日々の中で、遠く海の向こうの小さなコーヒー農家の暮らしと森に想いを馳せ、
行動を起こしてくださった皆様に心より感謝を申し上げます。

フィリピンでは現在フェーズ1と「パルパーチャレンジ」からの寄付金で活動を開始し、パルパー9 台を農家さんと農家さんの組織に配布しました。

これから、乾燥トレイの配布、簡易な乾燥施設の建設、ハラー(パーチメント除去機)の配布などを行っていきます。

こちらフィリピンの山岳地方では12月よりコーヒーの収穫が始まりました。
しかし、驚くことに前年の10%ほどのコーヒーしか実をつけていない大凶作となっています。

(この木はたった一つの赤い実!)

コーヒーはあの赤い可愛い実をつけるために、木が擁しているたくさんの養分を実に送り込みます。
例年、一生懸命実をつけたあとのコーヒーノキはもうへとへとで疲れ切っています。

それでも次の年にも実をつけるために、土壌が含む養分、雨期の雨の恵み、太陽の光を取り入れ、半年後には白い可憐な花を咲かせ実をつけます。

今回は、たぶん「1回休み!」というコーヒーノキの休憩期間なのだと思います。
人間同様、植物を含む自然にも休む時間が必要です。化学肥料や栄養剤を足して無理やり実をつけさせずに、ゆっくりとコーヒーノキにも休んでもらうのが自然の摂理だと思っています(同じくオーガニック・コーヒーの産地である東ティモールのコーヒー関係者に聞きましたが、やはり6-7年おきにほとんど実がならない年があるそうです)。
もうひとつ、いま世界中で叫ばれている「気候変動」の影響もあるかもしれません。

(反町も収穫の手伝いに行くも、実が少なくてあっという間に終わってしまう。)

コーヒーノキに関しては以前より「2050年問題」というのがコーヒー産業に関わる人の間で取り沙汰されています。
気候変動の問題で2050年には現在のコーヒー産地でコーヒーが栽培できなくなるのではないか?というのです。

実際、昨年は一大産地のブラジルで霜害、コロンビアで長雨でコーヒー生産量が激減しました。
「えっ?コーヒーが飲めなくなるかもしれないの?」
「もしかしたらコーヒーの値段が上がっちゃう?」
とコーヒー好きの人たちの驚きの声が聞こえてきそうですが、もっと大変な問題があります。
わかりますか?
世界中でコーヒー生産に関わる2500万人ともいわれる小さなコーヒー農家が仕事を失うことになるのです。

もしかしたら、そっちのほうがずっと大変なことではないでしょうか?

今回の大凶作を目の当たりにし、モノカルチャー(単一栽培)の恐ろしさを実感しています。

モノカルチャーでは生態系が失われ病害虫被害で作物が全滅する可能性があること、地力の低下により化学肥料に頼らざるを得なくなる可能性があることなどに加え、
人間の力ではどうにもならない自然災害が起きてその作物が被害を受けた時に農家の暮らしは瞬く間に立ちゆかなくなるのです。

私たちはフィリピン先住民の人たちが自給のための様々な作物とともにコーヒーを植え続けてほしいと思います(アグロフォレストリー=森林農法)。

そうすることで気候変動による災害にも屈しない、コミュニティとそこに暮らす人びとのレジリエンス(困難などに適応する力)が高まっていくと考えています。

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コーヒー2050年問題についてより深く知りたい方はこちらGigazineのニュース記事を参照してください。

https://gigazine.net/news/20200812-global-coffee-crisis-coming/

 

▼2021年のおたより▼
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12月 ついにパルパーを届けてきました

夏に開催していただいた「パルパーチャレンジ」キャンペーンとクラウドファンディングで
たくさんの方から応援いただいたお金で、ついにパルパーを購入しました。

パルパーは遠くミンダナオ島ダバオ市から、2週間をかけて先週バギオに到着。
さっそく一つ目のサポート先であるキブンガン町サグパット村のコーヒー農家に届けてきました。

サグパット村はバギオ市から車で約3時間半のかなりの山奥にあるサヨテ(はやとうり)の産地の村です。

実はサグパットの村では9月に新型コロナウィルスの感染者が爆発的に増え、
ロックダウン(封鎖)というもっとも厳しい措置が1か月も取られていました。

幸い現在、感染者は減っていて、日帰りならば居住者以外も訪問可能になりました。

バギオ市内でエコショップを営むピアコス・ファミリーと、写真家ニコさんをお誘いし、
私たちのNGOのスタッフとともに、ほんとうに久々のサグパット村訪問を行いました。

村ではジョセフ&カメリータ・シアットさんのご家族が私たちを迎えてくれました。

収穫が始まったばかりのサグパット村。
シアットさんの家の庭にもナチュラル・プロセスで加工されたコーヒーのチェリーが乾燥されていました。

「どうしてナチュラル製法でコーヒー豆を加工しているのですか?」という私たちの質問に、
「そっちのほうがおいしいから」とカメリータさんは恥ずかしそうに答えました。

いえいえ、そうじゃないと思います。
大変だったんです。本当に。杵と臼で皮をむくのが。

お届けしたパルパーは、ジョセフさんがうれしそうに箱を開けて組み立ててくれました。
そして、その朝にカメリータさんが収穫したコーヒーチェリーを使って、試験運用をしました。

もちろん私たちのスタッフは、ウォッシュド製法のプロセスをていねいにカメリータさんに復習講習しました。

「これでコーヒーの収穫後の加工作業が本当に楽になります。どうもありがとう」

心のこもったお礼の言葉とともに、コーヒーの木と一緒に植えられているレモンと新鮮なクレソンを山ほどお土産にいただきました。

応援いただいた皆様、どうもありがとうございました。

―――

クラウドファンディング「世界のみんながしあわせになるコーヒー」第一フェーズからの送金額は
1,224,927円(ペソにすると494,968ペソとなります)。

また、皆さんにご参加いただいた「パルパーチャレンジ」でのコーヒー売り上げからの寄付212,785円(93,625ペソ)を受け取りました。

クラウドファンディングでは引き続き第二フェーズの資金調達中です。
ご協力よろしくお願いいたします。

詳細とご寄付はこちらから↓
https://spin-project.org/projects/73

 

11月 山岳部のコーヒー生産地でのコロナ感染拡大

(ロックダウン中の集落のコーヒー農家の方たち)

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)のコーヒー倉庫と苗場と作業場のある集落では、
8月以来8人の方が新型コロナで亡くなりました。
都市部での感染拡大から1年遅れです。

地方自治体政府でも感染拡大を抑えるために、感染者が出ると濃厚接触者を対象にPCR検査をします。
そして陽性者には自宅から外出禁止となり2週間の隔離となります。
しかし、日銭暮らしの貧しい村の人たちは、あっという間に毎日の食事にも困るようになります。
背に腹は代えられないと、調子の悪いのを隠して働きに出ます。

どこの国でも共通しますが、まずはお年寄りから感染の犠牲になりました。
先住民族の文化では亡くなった方とのお別れにあたって、日本の通夜のような風習で亡くなった方との思い出を語り合います。
それは先住民の方にとっては、何があってもおろそかにできない大切な儀礼です。
コミュニティで亡くなった方たちの通夜やお葬式で感染が拡大していったと思われます。

山岳地方では病院が少なく、比較的町から近い私たちの倉庫がある集落でも、一番近い病院まで1時間はかかります。
また、ロックダウンから1年半がたち、貧しいコミュニティではどこの家庭でも現金が底をついています。
そして、昨年来、公共交通機関はなくなったままなので、病院に行くにも、それなりの金額を払って車をチャーターしなくてはなりません。
少し具合が悪いくらいでは誰も病院には行きません。行けません。

(酸素補充を待つタンク)

そして、新型コロナの特徴で、あれよあれよという間に急に症状が悪化し、呼吸が苦しくなります。

そこで初めて自治体の保健課やその付属のクリニックに連絡がいくわけですが、
病院に連れていく間に緊急で使う行政の酸素ボンベはすでにすべてが自宅療養者に貸し出し中で、
そのまま自宅で亡くなる人も出ているとのことです。

(タンクの値段表)

酸素ボンベの価格は高騰し、平常時の3倍に。
酸素の補充に長い行列ができることもあるようです。

1本の酸素の補充にかかる金額は、最小単位の3リットルでだいたい彼らの日当くらいの金額とのことで、
決して安い金額ではありません。

この感染が徐々にこれ以上山奥に広がっていかないことを祈るしかありません。

CGNでは、酸素タンクをコミュニティに送るための寄付の募集を始めました。
ご協力どうぞよろしくお願いいたします。

≪クレジットカードでのご寄付≫
https://syncable.biz/associate/cordilleragreen/donate/

≪銀行振込み≫

広島銀行 向島支店(097)
口座番号:3077610
口座名:コーディリエラグリーンネットワーク日本事務局

 

10月  ラジオで学ぶコーヒー栽培

ここコーディリエラ山岳地方では、パンデミック前までは先住民の人たちの暮らしの向上のために
政府主催でさまざまなセミナーが行われていました。

しかし、昨年3月以降、感染拡大を防ぐため移動や集会規制が続いており、それらもすっかりストップしています。
そこで農業省が積極的に進めているのが、農家向けの「スクール・オン・ザ・エア」。
北ルソンで広く話されているイロカノ語の地方ラジオ局を使っての農業セミナーです。

(DZWTは人気のイロカノ語のラジオ局です。番組はライブなので緊張気味のリリーさん。)

2021年7月からはベンゲット州の農家を対象に、約3か月のコーヒー・コースも開始されました。
週3回、毎回約30分のラジオ番組を聞いて、コーヒーの栽培から加工、マーケティングまでを学びます。

さて、私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」のフォレスター(森林官)であるリリーさんは、
講師としてこのラジオ番組に呼ばれています。

担当するのは2つのテーマ。
一つ目は「収穫後のコーヒーチェリーの精選方法」。
そしてもう一つは「コーヒー生豆の等級付け」です。

リリーさんは国際的なコーヒーの品質評価資格「Qグレーダー」を持っている
コーディリエラ出身のたった二人の先住民のうちの一人なのです。

(コーヒーの香味を評価するカッピング講習会の様子。右がリリーさん。)

ラジオなので誰でも聞けますが、事前に登録すると、最終回に行われるテストに参加できます。
それに合格したら、国のTESDA(技術教育技能開発庁)から修了証をもらえるのです!

このプログラムは、農業省コーディリエラ事務所がパンデミックで都会から山の村に戻った多くの若い人たちに、
コーヒー栽培に関心を持ってもらいたいと企画したとのこと。
ベンゲット州の10の郡からの登録者はなんと156人!

日本では「オンライン・クラス」「ウェビナー」ですが、インターネットの通信状態が悪い山岳地方では、
まだまだラジオが大活躍です。

それにしてもラジオを使ったテスト。いったいどうやってやるのでしょう?

出題はラジオの生放送でされ、回答は携帯電話のショートメッセージ(こちらではテキストと読んでいます)で送るのだそうです。
参加者156名の回答が一気に!
混乱せずに採点するのが大変そうですね。

(2018年にCGNが開催したカッピング講習会の様子。
農家の人や、政府の農政課の人も参加。先生はドイツ人のコーヒー専門家の方です。)

 

9月 決死のコーヒー苗木配達隊、無事帰還!

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)は、昨年から継続して2つのアグロフォレストリー(森林農法)プロジェクトを行っています。

COVID-19の移動規制で、隣の州で始めたプロジェクトは事業地に苗木を運ぶことができず、事業期間を延長しました。
植林は雨季にしないと根っこがつかず枯れてしまうことが多くあります。
植林は雨に打たれながらやるのが、基本なのです。

(苗木をトラックから降ろす作業)

さて、こちらフィリピンも雨季に突入です。

今年は例年より雨が少ないようですが、1年延長した植林をこの雨季中に終わらせなければなりません。
プロジェクト担当の森林官のマイラは、事業地のタジャン町の許可を得て、3000本の苗木とともに決死の苗木配達の旅に行ってきました。

なぜ決死かって?
バギオから事業地のタジャンまで片道5-6時間かかるわけですが、パンデミック規制で隣の州での宿泊は許されておらず、24時間以内に帰ってこなければならないのです。

つまり、3000本の苗木をトラックに積んで、いくつもチェックポイントを通りながら5時間くねくね山道を走り、3000本の苗木を積み下ろします。
それだけでなく、昨年届けた苗木がちゃんと植えているか、育っているかをチェックして、またまた5時間かけて帰ってくるというわけです。

(ちょっと意外な気がするかもしれませんが、バナナとコーヒーを一緒に植えています)
早朝4時に出て、夜11時半に無事帰ってきました。よかった。

写真で見ると、1年間苗場でスタンバイしていた苗木は少々育ちすぎちゃったみたい。
大丈夫かなあ。ちゃんと育ちますように。

 

8月 東ティモールの手作りパルパーに続け!

トゥバ郡というところに、コーヒーセミナーに行ってきました。

講師は、森林官(フォレスター)の国家資格をもち、コーヒーに関しては香味の評価に関する国際資格Qグレーダーをもつリリーさん。

リリーさんのプレゼンは、苗木づくりから、古木の剪定の仕方、収穫後の加工まで、農家のリクエストに答えてあらゆる分野に及びます。
そのプレゼンのなかで、参加者のかたが、「おおっ」とざわついたのが、収穫したコーヒーの果皮をむく東ティモールの木製のパルパー(皮むき器)が紹介された時です。

(講師のリリーさん)

「これは木製ではないか?」
「これなら作れそうじゃない?」
「設計図ないですか?」
パルパーがない中、フィリピンの多くの農家さんは臼と杵という、米作りに使っていた道具でコーヒーの皮むきと殻取りの作業を手作業で行っているのです。
大変な重労働です。

(東ティモール製のパルパー)

実はこの東ティモール製のパルパーの作り方を学びに、コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)は、3人の農家さんと一緒にはるばる東ティモールまで行ったことがあります。
2016年のことです。

東ティモールの高地にはポルトガルの植民地時代に植えられたコーヒーノキがたくさんあり、それらは外貨を稼ぐことのできる数少ない作物です。
加工後の機材が不足する中で試行錯誤を繰り返し、農家の人たちが編み出したのが、この木材と廃品で作ったパルパーというわけです。
3人の農家さんは2日間じっくりかけで、村の名人からパルパーづくりを学びました。

パルパー作りの要は皮をひっかけてはがす金属部分。
ドラム缶の廃品を材料として作っていました。

3人の農家さんはさっそくフィリピンに戻ってきて、習ったパルパーを手作りしました。
近隣の人に作り方を教えたり、注文を受けて作ってあげたりしています。
CGNでも3人の農家さんを講師に呼んで、パルパーづくりの講習会を実施してきました。

それでも、ぜんぜんパルパーは足りないのが現状です。

収穫量が増えてきて、臼と杵の手作業ですべての収穫したコーヒーを処理できなかったり、収穫自体をあきらめる農家も出てきたのです。

そこで、シサム工房とCGNで農家にコーヒー加工の機器を贈るプロジェクトが始まりました!

↑これが今度のプロジェクトで送る予定のパルパーです。
皆さんのご参加を、お待ちしております!

詳しくは > こちら <

クラウドファンディング特設サイトは > こちら <

 

7月 コンペ受賞豆のオンライン・オークション

フィリピンでは、コーヒー市場を盛り上げるために数年前からコーヒー品質コンペティション(PCQC)が開かれています。

農家にコーヒー豆のサンプルを提出してもらい、国際的なコーヒー組織CQIの協力を得て、審査員が国際基準に則ってコーヒー豆の品質順位をつけるというものです。

今年も受賞者がアラビカ種部門、ルブスタ種部門でそれぞれ5月に発表になりました。

アラビカ種部門は上位11人が発表になりましたが、優勝以下4位まではミンダナオ産のコーヒー。
5位から11位までのうち5つにコーディリエラ産のコーヒーが食い込みました。

↑コーディリエラ産では最高得点をとったコーヒー農家。

さて、今年のコンペでの新しい試みは、オンラインのオークションで受賞した豆を販売するというものでした。

6月26日に行われたオークションの結果は驚くべきものでした。
コンペティションで1位を取ったアラビカ種の1キロ当たりの落札額は52.20ドル。
日本円で5700円以上の値が付いたのです。

落札者はフィリピンの人でしたから、国内産のコーヒー豆へのエールという気持ちもあると思います。
https://auction.pcqc.coffee/en/

「すごい値段がついてよかった」と思う一方で、少し複雑な気持ちになったのも事実です。
優勝したコーヒー農家と同じくらいの努力をして、コーヒーを栽培し加工している農家もたくさんいます。

SISAM COFFEEを生産している農家の人たちもそうです。
でも、1キロ5700円でコーヒーを販売できるわけではありません。

オークションはある種のお祭りみたいなもので、勢いや場の雰囲気でどんどん入札が進んで値が上がります。

大事なことは、農家の人たちの暮らしを長期的に安定して支えることのできる、持続可能なコーヒーの取り引きです。

もし、SISAM COFFEEの生産農家の人が「来年このコンペに参加したい」と言ったら「ぜひ挑戦してみて」と応援します。
でも、同時に、地道に努力を続けているそのほか大勢の農家の人たちを忘れません。

私たちはそういうフェアトレード・コーヒーをSISAM COFFEEとしてお届けしています。

 

6月 産地ではコーヒー「新豆」集荷の真最中!

ルソン島北部山岳地方でのコーヒーの収穫は、2月までです。

コーヒーの実はさくらんぼのような赤い実なのですが、
それを日本に輸出するための「生豆」(「なままめ」と読みます)にするには、
選別から乾燥まで、大変な手間と時間がかかります。

ようやく乾燥ができてすぐに出荷できるかというとそうではなく、
倉庫でしばらくの間、殻(パーチメントと呼ばれています)のついたままの状態で
「寝かす」(英語でキュアリングCuring)必要があります。

そうすることで、一つの袋に入っているコーヒー豆の品質が安定し、品質が保たれたままで輸送や貯蔵が可能になるのです。

コーヒーの収穫は1年に1回ですから、少なくとも1年間は「美味しさ」をキープしなくてはなりません。
キュアリングを終えたコーヒー豆は、出荷前に殻を剥き、農家さんが欠点豆を一粒ずつ手で選別します。

こちらの写真はシサムコーヒーの産地の一つ、カパンガン郡サグボ村での私たちの集荷の様子です。

農家組合の代表のジャネットさん(写真中央女性)が立ち会い、
一袋ずつ乾燥や選別がきちんとされているかをチェックします。

収穫が始まってからすでに半年。
ようやく「新豆」が完成したというわけです。

農家の人たちもちょっと名残り惜しいような表情で、
ミニトラック(フィリピンではジプニーと呼ばれています)で運ばれていく
手塩にかけて生産した生豆たちを見送っていました。

 

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