もったいない精神と想像力
京都でエシカルに生きる 第1話
シサム工房の事務所がある京都は、初めて出会った人でも知り合いの知り合いだったりするような、
近いところでつながりが広がる街。
エシカルって具体的にはどういうことなのだろう。
思いやりを持つこと?誰かが損をしないようにすること?環境に配慮すること?
その答えに悩んでいる時に、ふと周りを見渡すと、
エシカルなライフスタイルを気取らずに実践している人がこの街にたくさんいることに気づく。
そこで、私たちが考える「エシカルメンズ」に会いに行き、
エシカルとは何か、彼らの生き方から考えていきたい。
記念すべき第1話は、小泉攝さん。
「そうげんカフェ」、「sowgen brocante」、「SOWGEN」の3店舗を営み、
古道具や古家具、さらにはデザインやお花・植物まで、確かな審美眼でその世界観を表現されている。
今回お話を伺った場所は「sowgen brocante」。
店内には所狭しと世界中から集まった素敵な古道具が並ぶ。
店内に並んでいる古道具達にはひとつひとつに表情があり、まるでその物たちがこの場所にたどり着くまでの
物語を語りかけてくるようだ。
お店の創業当時の約20年前、ナチュラルな質感や経年変化をした素材を使った物はあまり多くなく、
sowgenのようなお店は少なかったそう。
「大工さんなどにお願いするにも、なかなか伝えるのが難しい状況で、なら自分でやってやろうと思って。」
と当時を振り返る。
元々自分で手を動かすことが好きだった小泉さんは、セルフビルドでお店を作り上げた。
“最初にカフェを始める時が2004年頃でしたが、まずセルフビルド自体が今ほど普及していなかったと思うし、
めずらしかったと思います。
自分で解体から始めて、壁を塗ったり、床を貼ったり。時間はかかってもいいから自分で作ろうと思って。”
解体、壁塗り、床貼りまで、ひとつひとつの過程に自分の手で向き合う。
そこに小泉さんのモノづくりの原点がありそうだ。
では、小泉さんがモノづくりに興味を持ったのはなぜか。そのルーツを探りたい。
“僕は、父も祖父も兄も弟も牧師という、キリスト教のファミリーで、彼らは神様と人をつなぐという仕事をしています。
ただ、みんなその道に行っても面白くないだろうと思って、僕はどちらかというと世俗的なところ、
物を扱うという道を選びました。
結局物を扱っていても向こう側に人はいるのですが、直接ではなく、間接的という感じですね。”
“元々家が教会だったということもあって、父がバザーをするんですよね。
そのバザーがすごく盛況で、地域の人がたくさん来て、たくさん売れるんですけど、
バザーが終わった後に売れ残ったものを処分しないといけないんですよ。
当時90年代ぐらいのバブルが少し残っているような感じの時だったので、物がたくさんあったんです。
けど、こんなにたくさん使える物があるのにゴミになるなんて、
こんな社会は間違っていると思ったのが、ルーツにもなっています。”
使える物がゴミになってしまうことへの疑問。そこで感じたもったいない精神。
まだ使える物たちをゴミとせず、捨てる量を減らすにはどうすればよいのか。
“とにかく自分は捨てたくないから、そのバザーで必死に売るわけです。
そりゃ売上もあるけど、ちょっとでも捨てる量を減らしたいので、古着を売るならコーディネートを工夫したり、
3つ買うなら5つでサービスしたり、無料だと逆に売れなかったりとかするので、上手にコーディネートして売りました。
売る時にいいなと思ってもらう工夫などはそこで鍛えられました。”
もったいない精神から湧き上がるDIY精神に、小泉さんのルーツがあった。
まだ使える物をゴミにしないこと。それはSDGsにとって最も重要なテーマの一つだ。
それをSDGsやエシカルという言葉が登場するずっと前から実践する小泉さん。
そこにはどのような哲学があるのか。
キーワードは「想像力」だ。
“例えば、古い物なら、この器を使った人、使われてた時代とか。
物の向こう側に人が見えるわけじゃないですか。
自分たちが扱っているのは、商品であって物質なんだけど、それは単に物というだけではなくて、
使う人、作る人、手渡されてきた歴史など、それぞれストーリーを含んでいて、人の暮らしや生き方が見えてくる。
そういう、物を通して、その向こうにいる人や文化を想像できることがすごく面白い。”
“ただ物を扱うだけではない面白さ。
高い安いとか、そういう話ではなくて、向こう側に見える人の暮らしやその歴史というのが、
よりそのものに愛着を深めてくれるし、それを人に売る、売るというかそれを手渡していくことに喜びを感じています。”
物の向こう側に見える人の暮らしや生き方を想像する。
そうして愛情を持って接している物を、
そう簡単にゴミとして捨てることはできないのではないか。
エシカルな社会を作り上げていくために、私たちはどう行動すればよいのか。
小泉さんの言葉からは、その本質を考えさせてくれる。
“僕が扱う古道具とSDGsの関係で言うと、古道具は、それだけ物を大事にしているので、
新しい物を作らなくてよい。
例えば、うちで買った商品に関して言えば、いらなくなったらまた買取りますよとお客さんに言うぐらいです。
やはり循環させるということが大事だなと。
使える物を捨てるのが一番嫌で、捨てるぐらいなら持ってきてくれれば買い取るので、
ゴミにするのは辞めてね、と。”
商品を売って終わりではなく、まるで旅をして帰ってくるように循環し、ストーリーが続いていく。
ファッションに関しても、小泉さんは同じ想いを抱いているそうだ。
“高校の時に私服の高校に入って、服を買わなきゃと思った時に、このシャツを買って、
自分が30歳になった時にも着られるかなとか、そういう視点で服を選んでいました。
流行り廃りで、今シーズンだけ着て終わりではなくて、
自分が大人になったら着られないようなデザインのものは買わんとこうと思いました。”
そこにあるのは、やはり想像力ともったいない精神。
コロナ禍で人と接する機会もなかなか持てなくなってしまっている現在。
直接お店で商品をじっくり見て、そのストーリーを想像する、ということも難しい世の中になっている。
そこで私たちはどうすればよいのか。
小泉さんのお店も、コロナ禍で1ヶ月お店を閉めなくてはいけなくなったそうだ。
そこで、今まであまり行ってこなかったインターネットでの販売を始めた。
ステイホーム事情とあいまってウェブサイトで購入されるお客様も多く、
ウェブにアップされた商品を見て、お店を訪れるお客様もいたりなど、新たなつながりも生まれた。
“コロナ禍になってからも、結局お店を閉めたのは1ヶ月くらいで、あとはずっと開けているんですけど、
やはり関係性、つながりということはすごく大事だと思っていて。
コロナ禍になって苦しんでいる人も大勢いて、子供も学校がなくなってしまったりするとやはり閉ざされてしまうので、
そのような中でどうやって人とつながるかということはすごく大事だと思います。”
“ウェブだと一方通行で発信しっぱなしみたいになってしまうので、それもどうかなと思う事もありましたが、
でもそれを見た人が何かを感じてくれればいいわけなので、
一方通行から始まる関係性もあるのかなと思います。
やはり自分が大事にしていることは想像力と多様性、そして関係性。いつもそればかり考えていますね。”
例え社会が移り変わったとしても、小泉さんの姿勢は一貫している。
物の背景にあるストーリーを想像し、愛情を持って向き合うこと。
そこには、エシカルな生き方とは何か、その大きなヒントが込められているように思えた。
FAIR TRADE LIFE STORE by sisam FAIR TRADE
フルカワ
■今回のエシカルメンズコーデ
ネイビーのトップスとデニムパンツのクールな組み合わせに、
2トーンが美しい手織りのショールを合わせました。
ショールの鮮やかなブルーとふわふわの質感がワンポイントとなり、
華やかさと優しさを演出してくれます。
秋を穏やかに楽しむ人に、ぜひお試しいただきたいコーデです。