世界とつながる一杯
京都でエシカルに生きる 第4話
「生産者がどのような想いでコーヒーを作っているのか、貧困問題や環境問題も含めて知ってもらいたい」
この京都の地で、そんなアツい想いを胸にコーヒー豆の販売を行うコーヒーの達人がいる。
その人とは、サーカスコーヒー店主の渡邉良則さん。
京都市内で最も長い商店街であり、魅力的なお店が並ぶ新大宮商店街を北に抜けると、
キュートなのれんが目を引く木造の町家が見えてくる。そこがサーカスコーヒーだ。
当日お訪ねすると、ちょうど渡邊さんがコーヒー豆の焙煎をしていた。
焙煎機がゴーゴーという音を立てながら、香ばしいコーヒーの香りが立ち込めている。
お店には、色とりどりのカップに世界中のコーヒー豆が並び、
どのコーヒーも美味しそうで、見ているだけでワクワクしてくる。
素敵な内装やグッズなど、デザインを手掛けているのは奥さんの文さんだ。
サーカスコーヒーは今年で開店10周年。
渡邊さんは美味しさだけではなく、背景を知ってもらうという視点も大切に、コーヒーの魅力を伝え続けてきた。
渡邊さんがそのような想いでお店を始めるきっかけは何だったのだろうか。
そのルーツは学生時代に抱いた環境問題への関心にあると言う。
“学生時代、将来何をしたいかを考えていたときに、テレビで海についての特集を放映していました。
それを見て、地球に住んでいるのに海のことや魚のことなど、知らないことがたくさんあるなと思って。
その時から温暖化や熱帯雨林の伐採の話題があって、そこにすごく影響を受けました。”
“それがきっかけとなり、大学時代は水産学科に進み、漁場学を学ぶ研究室に入りました。
そこでは、琵琶湖の水質などを研究していて、私も琵琶湖をフィールドに研究を行いました。
そこから、環境関係の仕事に進む方向もあったんですけど、データと向き合うよりは
自然の中で働ける仕事がいいなと思って、海外に興味があったこともあり、
インドネシアで真珠を作る仕事につきました。
発展途上国に旅行ではなく実際に住んでみて、ほんまのところが見たいという思いもありました。”
渡邊さんがインドネシアで働いていた期間は、ちょうどインドネシアの長期政権が崩壊するタイミング
だったそうだ。
現場で働く中で、格差の問題も痛感したという。
“僕みたいな新卒の若者が現場に行って、いきなり人件費の安い、60人ぐらいの部下ができて仕事をする。
みたいな構造にすごい違和感があり、南北問題を肌で感じるところがあったんです。
それに加え、現地の治安が悪くなったり体調も崩してしまったりで、一旦日本に帰ることにしました。”
その後、渡邊さんはたまたまコーヒーの会社の面接を受けたことがきっかけとなり、
コーヒーの道へ進む。コーヒーについては、それまでは全く詳しくなかったそうだ。
“コーヒー業界に入るまで、レギュラーコーヒーなどは全く飲んでませんでした。
ちょっとこだわりが強い人が飲むものなのかなというイメージがあって、ハードル高いなと感じていて。
なので、知識は全くゼロの状態でコーヒー業界に入りました。”
“最初営業の仕事で面接を受けたんですけど、ちょうど焙煎工場を作るタイミングで、
僕の経歴を見てくれたこともあり、新しい工場の品質管理の研究開発をやらせてもらえることになったんです。
ただ、開発担当が僕しかいなくて、これはちゃんと勉強しないとなとなりまして、かなり力を入れて勉強しました。
まっさらな状態から始めたので、新しい発見がたくさんあってすごく面白く、そこからどんどんコーヒーにはまっていきました。”
渡邊さんはそこでコーヒーについて猛勉強する中で、コーヒーが持つ社会的な側面についても学び、
想いをさらに強くしていく。
“コーヒーは、石油に次いで世界第2位の物流量を誇る商品なんですけど、
そんな世界的にインパクトのある商材である中で、一部の世界的多国籍企業が莫大な利益を得られる
システムになっているということにすごく衝撃を受けました。
さらに、その時はちょうど2000年ぐらいで、コーヒー危機のタイミングでもあり、
このままのシステムだと美味しいコーヒーが飲めなくなるんじゃないかと。
コーヒーは国際相場にすごく左右されるし、それじゃ作っている人たちが安定した生活はできないし、
美味しいコーヒーを作ろうという意識にもならない。
その当時からフェアトレードということは言われていて、そこにすごく興味があったというか、
そこからどんどんコーヒーにはまっていったという感じです。”
渡邊さんはコーヒーについての様々な仕事を経験する中で、
コーヒーの持つストーリーを、消費者により直接伝えていきたいという思いに至る。
その後カフェへの転職などを経て、サーカスコーヒーのオープンへと至るが、
サーカスコーヒーがコーヒー豆の販売に特化するきっかけもその時感じた思いにあるそうだ。
“転職した先のカフェは、サステナブルという考え方をすごく重視しながら、地域に根差したとても素敵なお店で、
そこで店舗に立って働きました。
そこにはカフェと豆販売専門のお店があったのですが、
豆販売はコーヒーを純粋に買っていただくという側面がある一方、カフェは空間を利用していただくという側面がより強い仕事でした。
そこで働くことで、カフェを利用する人とコーヒー豆を買う人って、
同じように見えて、全然違うということを感じたんです。
その経験がきっかけとなり、自分はよりコーヒーのことを伝えたいという思いが強かったので、
独立する際に豆販売だけにしようと思ったんです。”
サーカスコーヒーがある場所は、渡邊さんが生まれ育った実家のほど近く。
決して観光地というわけではないこの場所でお店を開くことを決心したのは、
観光地ではないが魅力的なお店がたくさんあるこのエリアを盛り上げていきたいという思いもあったそうだ。
お店を訪れるお客様は皆、渡邊さんとの会話を楽しみながら、笑顔でお店を後にしていた。
渡邊さんが何よりも大切にしているのは、「まずはコーヒーを飲んでおいしいと感じてもらうこと」だ。
そして、地域に根付いたコーヒーショップであること。
“やっぱり飲んでおいしいっていうのが一番大事だと思うんです。
サステナブルだから買ってくださいというよりも、美味しい、自分にとって必要なものだっていうことを
感じてもらって、結果的にサステナブルなものを飲んでいるというのがいいのかなと思って。
フェアトレードについても、直接現地に買い付けに行く事が全てではなく、
街のお店として、お客さんとお話をしてコーヒーの美味しさを味わってもらって、
その上で自然にそれがフェアトレードにつながる。これだって立派なフェアトレードだと思うんです。”
決して上から目線にならず、コーヒーの良さや本質を楽しく共有しながら、
結果としてそれがサステナブルな社会へとつながる。
そこにあるのは、世の中がポジティブに変化していくためのヒントだ。
大切な人に直接会いに行くことも簡単ではなくなってしまったコロナ禍であるが、
お客様との直接の関係性を大切にする渡邊さんにとって、
コロナ禍はコーヒーが作り出す日常の大切さを見直すきっかけになったそうだ。
“コロナ禍は、コーヒーの必要性というか、生活の中で大切に思ってもらっているということが、
わかったタイミングだと思ったんです。
ロックダウンの際も、お客様にお店を閉めるのか心配していただいたり、
すごく生活の中で必要とされているということを感じました。
コーヒーは毎日の生活に寄り添う飲み物として、
大切な日常の一場面を作り出しているんだということを改めて感じましたね。
コーヒーを飲むことで、日常生活の大切さに気付いたり、自分の生活を見直したりすることの
きっかけになってくれればいいなと思っています。
それが結果的に、作る人も飲む人も、自然環境まで含めてみんながハッピーになるというか、
難しい言葉ではなく、その日常を毎日続けていくことなのかなって。
それが自分にとってのSDGsですね。”
渡邊さんに今一番やりたいことをお聞きすると、
コロナ禍がひと段落したら、コーヒー販売で全国ツアーをしたいそう。
自らの足で全国のお客さんへコーヒーの魅力を伝えて回る。
渡邊さんらしい素敵な考えだと思う。
美味しいコーヒーの一杯が、作り手も飲み手も自然環境も、
みんなの幸せにつながっていく。
のれんをくぐると世界とつながるコーヒーショップ「サーカスコーヒー」。
渡邊さんが体現していたのは、まさに「Think Globally. Act Locally」だった。
FAIR TRADE LIFE STORE by sisam FAIR TRADE
フルカワ
■今回のエシカルメンズコーデ
シンプルながらも洗練された印象を持ち、
秋冬のアウターとして活躍してくれるステンカラーコート。
ネルの裏地付きなので、真冬でもあたたかくお過ごしいただけます。
インナーには、ネイビーのスタンドカラーシャツを合わせて、
スマートさも加えて。
日々に長く寄り添ってくれる着こなしのご提案です。
身長:180cm
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