逆境を乗り越えて守り続けるもの ~スワガタさんのお話 後編~
SASHAシニア・デザイナーのスワガタさんのお話。
後編は手織りストールと木工品についてのお話をご紹介します。
手織りストール ~時代の波に翻弄されて~
サシャの手織りストールが生まれるのは、伝統的にサリーの産地として知られる西ベンガル州のナディア地区。
この地区のフーリアという地域に手織りストールの職人たちの村はあります。
フーリア村は、はじめから存在した村ではありません。
その歴史はインドの近代と共にあります。
時はインド独立の1947年とバングラデシュ独立の1971年。
インドという国の歴史が大きく動いた時に、今はバングラデシュという別の国となる地域から多くの職人たちが移住してきたのが、このナディア地区にあるフーリア村でした。
職人たちは、そこに新たな織物技術を持ち込みます。
そうして織られるようになったのが、美しいモチーフで知られる「タンガイル・サリー」。
タンガイル・サリーにはジャムダニ織りの技術が用いられ、その織りの技術と美しさでその名を轟かせることになりました。
しかし、職人の多さに対する需要が追い付かず、価格競争によって品質も落ちてしまい、職人たちは苦境に陥ります。
そこで、インド政府は職人たちをインド内の他の地域へ織りを学びに留学させるという政策をとります。
その際に開発されたのが、ストールなどの織りの技術でした。
新たな技術を得て熟練した職人たちは、需要を取り戻し、1980年には再び機織りの音がフーリアに響き渡りました。
その技術は海外の名だたるデザイナーやバイヤーからも注目されることになります。
サシャがフーリアの職人たちと協力し始めるのは1984年。技術復興の時代でした。
しかし、時代は移り変わり、大量生産・大量消費の時代へ。
機械織りの安価な製品や模造品が出回ることで、職人たちは再び苦境に立たされることになります。
フーリアの歴史はまさに栄枯盛衰。
多くの職人たちが転職してしまい、後継者となる若い世代は機織りを生活手段とは考えなくなってしまいました。
時代は機械織りへと流れる中、手織りストールの作り手たちは後継者問題に直面しています。
今もなお時代の大きな波に翻弄され続ける手織りストールの技術。
この技術を将来に受け継ぐことができるのか、それは誰にもわかりません。
もしかしたら、近い将来に失われてしまう可能性だってあるもの。
私たちはその技術に触れ、お気に入りの一枚に出会い、まとうことができます。
まずはその喜びを嚙みしめつつ、美しい技術を未来へつなぐために。
手織りストールのものづくりを通して、皆さんへ伝え続けていきたいと思います。
ストールアイテムをみる
木彫りカトラリー ~風土とともにあるものづくり~
最後にご紹介するのは、木工品についてのお話。
サシャの木工品は、西ベンガル州のミドナプルという地方の木工職人たちによって作られています。
ミドナプルは、たくさんの木々と豊富な水源に囲まれ、おだやかな時間の流れを感じる地方です。
ミドナプルの職人は、もともと水牛の角や骨を使用した製品を作っていました。
ミドナプルに限らず、ベンガル州は、かつて花嫁用の象牙細工の櫛などで有名だったそうです。
職人たちは、より販路を広げるため、実用的なボウルやサラダ用スプーンなどのカトラリーアイテムも開発していきました。
そこで使われる角や骨は、その土地で得られたものではなく、オーストラリアから輸入されたものでした。
時代は変化し、よりエコなものづくりへと世界がシフトしていく中で、生産経路が不透明な動物性製品の仕様は疑問視されることとなります。
職人たちは使用する材料を変えなければいけなくなりました。
このままでは職人たちの仕事は失われてしまう。
そこで注目されたのが、身近な存在であり、入手することも容易な木材です。
木材の加工にはそれまでに培った加工技術がそのまま使用できました。
しかも、角や骨よりも、木材の方が様々な用途に使いやすく、より大きな可能性を持っていました。
使われる木材はニーム、マンゴー、アカシュモニ(インド原産の細長い木)など、昔から人々の生活の中で暮らしの道具として使用されてきたものです。
これらの木々は、成長も早く、政府が管理し資源としても持続可能なものでした。
環境を傷つけることなく、安定してものづくりを続けることができる。
答えは、その土地の生活や風土にあったのです。
ニームのカトラリーアイテムを手にとると、手仕事の温かさの中に、インドの文化を感じることができます。
美しい手仕事というのはその土地の自然や文化から生み出される。
そのことをサシャの木工品は教えてくれます。
ニームアイテムをみる
今回、スワガタさんがお話してくれた「カディ、ストール、木工品」の3つの手仕事の物語。
そのどれもが、当たり前のようにあり続けるものではありませんでした。
歴史に翻弄され、存続の危機に立たされながらも、作り手たちが試行錯誤しながら守り続けてきたものです。
そうして作られたものを私たちは纏ったり使うことができる。
歴史を知ることで、その尊さを感じることができます。
“手作りのものには、作り手の生き方が込められている。人間の本質に訴えかけてくるもの。”
サシャの代表ルーパさんが語った言葉が改めて思い出されます。
1枚のカディ、1枚のストールをまとう時。木彫りカトラリーを食卓で使う時。
その時に感じる”良さ”というものは何なのか。
それは、歴史や文化の中で、たくましくあり続ける手仕事。
その生きた存在が訴えかけてくるものなのです。
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フルカワ
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ルーパさん、スワガタさん来日記念のリモートお話会、アーカイブが公開されました!
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