
語らずにはいられない

蚕が生み出す細い細い糸。
目を細めてしまうような、その小さな生命の営みから
作りだされる美しい繭。

糸紡ぎ、染色、糸巻き、手織り…
電力に頼らず、自らの身体と自然の力で、一枚のシルクショールを作り上げる人たちがいる。
インド・フェアトレードNGO「MESH」のメンバーである
「リトルフラワー」というグループだ。

ネパールとインドの国境近く、インド最貧州のひとつといわれるビハール州。
もともと村々を追われたハンセン病患者たちが流れ着いて出来たコミュニティだ。
インドでは、ハンセン病や障害への偏見が根強く残っており、
患者たちは仕事に就くこともできず、物乞いの生活を送らざるを得ない人が多い。

「リトルフラワー」では、無料で治療を受けられる病院も併設している。
ショールづくりは、作り手やその家族が自立した生活を送るための
明日への道となっているのだ。
私は、彼女たちの作ったショールについて
語らずにはいられない。
その美しい手しごとの世界を、たくさんの人にのぞいてみてほしいからだ。

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唯一無二の肌ざわりと、自然が生み出す美しい織り模様。
あぁ、これは一生モノだな…と感じるのに
言葉以上に、十分な何かを語りかけてくれる。
シルクそのものの色を活かしたnaturalショール。
小さな生き物の世界が紡ぎだした色彩は、
私たちには決して生み出せないものだと思う。

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わたしの一番のお気に入りは、katiyaショール。
ばさっと広げてみると。
不思議な惑星のような織り模様の世界に、視界が包まれる。

カティアシルクとは、繭の外側のモソモソとした”きびそ”という糸くず部分や
繭の内側の最後の糸くずを、丁寧に紡いだもの。
自然の恩恵を、余すことなく、大切に使う。
独特の色彩と光沢感は、私たちの心を弾ませてくれる、ワイルドな美しさだ。

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「どうぞお好きにあそばせ」と、
巻き方を、こちらに楽しくゆだねてくれる2トーンショール。
ぱっきりと優しく分かれた2色は、
まとい方次第で、多彩な表情を見せてくれる。

作り手の技と、使い手のセンスの共同作業。
答えなんてないオシャレの世界を、自由に楽しんでほしい一枚だ。

目でシルクショールを味わうとき。
自然のしずかな呼吸を感じられるような
きれいな織り模様が浮かびあがってくることに誰もが気付くだろう。
私は、彼女たちの作るシルクショールと出会ってから
アヒンサー(不殺生)シルクという言葉を初めて知った。

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アヒンサーシルクとは、蚕が元気に巣立ったあとの繭玉から糸を紡いだシルクのことだ。
通常のシルクと違って蚕の命を奪わないで、住いをリユースさせてもらう。

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通常のシルクの6分の1しかとれず、ちぎれやすいため、
とても扱いにくく、時間がかかる。
それを、全てのショールの横糸に織り込ませて、
美しい形に仕上げている。
彼女たちの手しごとの力が叶えた、途方もなく繊細で優しいものづくりだ。

この夏、コロナ禍に追い打ちをかけるように、
「リトルフラワー」の作り手たちが暮らす村に、深刻な洪水が襲った。
足まで水が浸かる生活が、しばらく続いたそうだ。
今も、コロナ禍の影響で各国からのオーダーがストップしてしまい、
途方にくれている状況た。

私たちは、心を痛めてばかりはいられない。
まだまだたくさんの人に語ることができるはずだ。
世界の一角で、美しく、たくましく。
まさに”小さな花”のように咲く、彼女たちの手しごとを。
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タニ