世界を変えるこの一着(4)
~ファッションレボリューション特別コラム~
2021年4月24日。
今年も「ファッションレボリューションデイ※」の名のもとに、世界中で多くの人が声をあげている。
私は、sisamで働く8名のスタッフに話を聞いてみた。
彼女たちが日常のなかで紡ぎだす、等身大のファッションのお話。
これは私の話でもあり、きっとあなたの話でもある。
言葉の糸を紡いで
幼い頃、人前に出るのが苦手だったスタッフのカトウ。
「あれがしたい」「これがしたい」
自分の希望をうまく伝えることのできない子どもだったと話す。
そんな引っ込み思案な小さな女の子に、自己表現の楽しさを教えてくれたのが
ファッションの存在だった。
フリルのある服。リボンが付いている服。
自分の思う「可愛い」が、自然と自分を表現する方法を教えてくれたのだ。
年を重ねるにつれ、好みは変化しながらも、
ファッションは、カトウの大切な原動力としていつも隣で彩りを添えてくれた。
“初めて「フェアトレード」という言葉に出会ったのは、
中学校の教科書でした。
最初は、単なる一つの用語としてさらっと捉えていましたね。
年を重ねるにつれ、だんだんとフェアトレードの存在を
ただの「言葉」ではなく、自分ごととして考えるようになっていきました。”
そんなカトウがシサム工房の扉をたたいたのは、今年の2月。
日々お店に立つなかで、目前に広がっていくフェアトレードの世界。
一つ一つの服や雑貨の奥で息づく生産者の暮らし、技術、想い。
少しずつ少しずつ、カトウの心の引き出しに大切にしまわれていく。
まだたどたどしくはあるけれど、お客様にそのストーリーをしっかりと伝えていきたい。
お買い物の最後に「ありがとう」と言ってもらう瞬間、
作り手と誰かの日常を、自分の言葉の糸でつなぐことのできた喜びに包まれる。
カトウは、手仕事のなかでも、特に「ブロックプリント」に強い思い入れがあると話す。
“最初の出会いが、ブロックプリントの洋服だったんです。
当時、フェアトレードシティ熊本のボランティアをしていた時に、
ある方に誕生日プレゼントでいただいたもの。
シサム工房で、ブロックプリントの品々を見つけたときも
大切なものと再会できたような嬉しさがありました。”
カトウにとっては、日常で肌身離さず持っている雑貨も、大切なファッションの一つ。
最近の愛用品は、日本の山々がぽこぽこと布のうえで存在感を放つ
ブロックプリントのキンチャクだ。
木彫りの版の味わいが、可愛い山肌の表情を表現している。
最近自炊を始めたカトウは、毎日のお弁当入れとして重宝しているという。
かばんの中でごちゃごちゃと混ざった小物も、お気に入りの模様のなかに収納するだけで
宝物のように見えてくる。
なんとも愛しい、整理整頓のパートナーだ。
大きなリボンをきゅっと結んだり、
カバン代わりに肩からかけたり。
日常を楽しく演出できる余白として、ヒモを長くしたのもポイントだ。
“同じ柄なのに、よく見ると一つ一つのインクののりかたが違うんです。
ここは少し擦れてるなぁとか。
ここはインクつけすぎたのかなぁとか。
このキンチャクを作った人の手の体温を感じることができるのも魅力ですね。”
新生活を迎えた人に、日常の小さなお守りとして
楽しく自由に使ってもらえれば嬉しい。
“透明性のあるモノ、背景を自分で感じることのできる服を
たくさんの人が選ぶことができたなら。
私と同年代の人たちは、高価な服はなかなか買えず、
やはりファストファッションのものを選ぶ人が多いです。
それも良く分かりますし、そこを無理にガマンしなくても良いと思っています。
例えば一着の服だけでも。一つの雑貨だけでも。
そんな風に少しでも多く「きっかけ」と出会ってもらえたら。
選択肢の一つに、誰もがフェアトレードのものを加えられる世の中を目指していきたいです。”
冴え渡る目で20代を生きるカトウ。
彼女の心の引き出しには、これからもたくさんのストーリーが大切にしまわれていくだろう。
人と人、人とモノをつなぐ糸。
彼女の言葉から、どんな多彩な糸が紡がれていくのか。
私は楽しみで仕方ない。
FAIR TRADE LIFE STORE by sisam FAIR TRADE
タニ
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※ファッションレボリューションデイ
2013年4月24日、バングラデシュの「ラナ・プラザ」ビルが崩壊し、
そこで働いていた1100名を超える衣料労働者が亡くなった。
当時の労働環境や作り手の人権問題が明らかになり、
この事故をきっかけに、人々はファッションの裏側にある世界へ目を向け始める。
衣料生産の現場で働く人々の労働環境に目を向け、
適正な賃金が払われているかを訴える、世界規模のムーブメントが
ファッションレボリューションだ。
特に事故のあった4月24日は、「ファッションレボリューションデイ」とされ、
毎年、世界各地で多くの人が声をあげている。