旅するコラム「インドの顔」
車のクラクション。
遠くに見える高層ビル。
そんな都会の喧騒あふれるインド・ラクノーの中心部。
リキシャの運転手同士がケンカする声が聴こえてくる。
人も、景色も、全てがエネルギッシュに存在を放っている街だ。
デザイナーのミズカミと現地スタッフは
ここから車を30分ほど走らせ、手刺繍の作り手たちが暮らすバガラン村を目指す。
車窓の風景が少しずつ表情を変えていく。
屋台の上で売られた新鮮な果物や野菜が
街並みの彩りを、よりビビットに見せてくれている。
川沿いの道では、たくさんの掘っ立て小屋が並ぶ。
「農村部から出稼ぎのために都会に出てくる人が多いんだ。」
そんな人々が暮らすコミュニティなんだと、現地スタッフが教えてくれた。
道ゆく人々も、その宗教によって衣装が多彩だ。
イスラム帽子をかぶったおじさんたち。
真っ白な丸い形が並ぶ光景が、なんとも素敵。
彼らがたむろする小さな食堂に入った。
この日は、45℃くらいだろうか。言わずもがな暑い。
扇風機ひとつで、店主がナンのような地元の料理「クルチャ」を焼いている。
小麦粉、牛乳、バター、サフランが原料だ。
これが本当に美味しかった。
布が積み上げられたお店では、よく見ると建物の彫刻がとても美しい。
見れば見るほど、歴史の奥ゆきを感じさせてくれる風景だ。
バラガン村に到着したのは、まだまだ太陽が照り付ける13時頃。
その日は学校が午前中までということもあり、村のあちこちに子どもたちの姿がある。
そして同じように村を闊歩するのがヤギたちだ。
イスラムの村の多くは、ヤギと共に暮らしがある。
家族と同じように大切に大切に育て、
祭りの日を迎えると、最後に生贄として食べる。
「生きる」ことと密接してヤギの存在がある彼らにとって
この営みは決して矛盾したものではないのだと思う。
子どもたちが遊ぶ隣で、リアカーを準備しているお父さんに会った。
たった一つの商売道具を引きながら、ここから何時間も歩いて市場に向かうのだ。
作り手の家にお邪魔すると、小さな子どもがバケツで水を汲んでいた。
お風呂も、料理も、全て水はここから使うそうだ。
「フェアトレードの仕事ができるようになって、こんな水場を作ることができた」と
一人の女性が誇らしそうに話してくれた。
彼女の言葉は、今も私たちの原動力の一つになっている。
ミズカミが一日を過ごした、インドの中のごく限られた世界。
それでも驚くほど多様な人、文化、景色との出会いがあった。
ありとあらゆる人々の「生きる」を内包したインド。
表面上、たくさんのことが均一化された日本で暮らす私たちにとって
「ちがう」ということを、これほどまでに剥き出しに見ることのできる経験はない。
たくましく、美しく、混ざり合う。
これぞ、インドの顔だ。
FAIR TRADE LIFE STORE by sisam FAIR TRADE
タニ・ミズカミ
FAIR TRADE PARTNER
KALATMAK / カラティマク手工芸自助財団
from India
母から娘へ伝承されるチカン刺繍で、伝統文化と産業に関わる人たちの暮らしを支える。