働くわたしたちの幸福論
京都でエシカルに生きる 第2話
京都府久御山町、宇治川と木津川に挟まれ、穏やかな田園風景が広がる町に位置する株式会社アグティ。
アグティは、病院や老人ホームなどの清掃事業やユニフォームクリーニングを主に行っている会社だ。
定期的にご高齢の方のお宅を訪問する見守り付き洗濯代行サービスや、障がい者就労支援型事業など、
社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
また、環境に優しい天然成分100%の洗濯洗剤を導入したり、社会課題について考える映画上映会を開催するなど、「未来社会貢献活動」という名で、既存の事業の枠を超えたソーシャルな取り組みにも次々に挑戦している。
「京都でエシカルに生きる 第2話」は、株式会社アグティの代表取締役 齊藤徹さん。
常に新たなことに取り組み続けるその情熱はどこから生まれるのか、お話を伺った。
到着すると、早速工場を案内していただいた。
工場には、今まで見たことのないような大きな洗濯機が並び、
たくさんの衣服がゴウンゴウンとダイナミックに洗濯されている。
スタッフの皆さんは、私たちと共同で制作したユニフォームを着て、
仕事に臨んでいた。
洗濯が終わった衣服は素早くアイロンがかけられ、綺麗に畳まれていく。
皆さんの手際の美しさに思わず息をのむ。
齊藤さんが入社したのは19歳の頃。
当時は前身の有限会社アロマクリエイトという会社で、
芳香剤を医療機関向けに販売する事業を行っていたそうだ。
その時のお付き合いから、洗濯や掃除などの仕事が始まり、
現在の清掃・クリーニング事業へとつながっていく。
入社当時は、仕事に邁進し、睡眠時間が3時間という日も多かったそう。
“当時は、結構楽しくやってたなーと思うんですけど、時間の感覚が全くなくて。
とりあえずやることだらけみたいな感じでした。”
その後、35歳の時に若くして代表取締役に就任。
当時から齊藤さんが大切にしているのは、
「会社は、働く人のために存在する。」という創業者の言葉だ。
“僕のコアな部分として、会社は働く人が主人公であるはずなのに、
知らぬ間に会社が主人公になりかわるということが起きているっていうことに、すごい違和感を持っているんですね。
生きとし生けるものが、より豊かになるために作られたシステムのはずなのに、システムを守ることが優先されて、
そこにいる人や生き物が知らぬ間に後に追いやられる。
だから、働く人が幸せになるために必要なことであれば、それはすべきだろうと思っていて、その1つが、
未来社会への貢献活動だと思っているので、そこに取り組む。そこだけです。”
会社では、基本的に社員教育も人事評価も行わないそうだ。
“僕たちなりに、働く人たちのための会社づくりというのを考えた時に、何が大切なのかなあって。
人事評価の大半は、会社が評価軸を作り、これに沿う人を評価して、報酬を与える。
それだと、会社にとって都合のいい人間がいるっていうことによって、知らぬ間に、会社が主体になってしまう。
そもそも、人が人を評価するなんてムリ!”
齊藤さんはサラりとお話するが、このようなスタンスで会社を運営することは、
なかなかできることではない。
働く人の幸せが根本にあるということは、フェアトレードにも通じる大切な考えだ。
このような考え方にいたるきっかけは何だったのだろうか。
齊藤さんは、幼少期に経済的な困窮を経験し、その経験から、
“先のことなんて何があるのかわからないのに、考えてもしょうがない”という考え方に至った。
“今もそうなんですけど、まずは目の前にあるものとしっかり向き合うということを大事にしています。
例えば、新しい事業を組み立てるといった時に、どこかに着地点を持って物事を考えなければならない、
と普通は教えられますけど、着地点を決めると、それ以上のものが生まれない。
着地点を決めないで、可能性を持ってやることの方が楽しいよねというスタンスでやっています。”
アグティが掲げる「我が社の道しるべ」の一つには、「自由と責任の共生する集団」という言葉が掲げられている。
齊藤さんのお話を聞いていると、その言葉からは、自由へのポジティブな意志を感じた。
では、齊藤さんにとっての自由とはどのようなものなのだろうか。
“僕の中の一番大きな価値観に、「自分の人生は自分の足でちゃんと歩く」というものがあります。
自分の人生を自分で歩くには、自分で決める、自分で見るといった、
能動的な行動を自分でしていくしかないんじゃないかと思っているので、
そのためには自由ってものがあった方がいいだろうし、当然責任もつきまとうというのが僕の中では大きなことなんです。
だから、僕が共に働く仲間に常々お伝えしていることですけど、会社のためになんか仕事をするなと。
会社はたかが、働く人たちが幸せになるために使う道具だよっていう言い方をしていて。
その道具をどううまく活用するかっていう風に考えてほしいんだっていうことをお伝えしているんですね。
ただし、道具は使い方を間違えると役に立たない。うまく活用するための指針が【我が社の道しるべ】だよって。”
アグティでは、様々な未来社会貢献活動を行っているが、
その中の一つである「社会課題について考える映画上映会」も、あるスタッフの方のひと声から生まれたそうだ。
“共に働く仲間のスタッフから「やりたい!」という言葉を聞いて、「じゃあやる!」って言って。
パートナーに協力いただいて、基本的には月に1~2回、京都市内3拠点で開催しています。”
スタッフからの一言が、大きな新しい挑戦につながる。まさに理想的な形だ。
齊藤さんが大切にしている自由への意志は、ポジティブなうねりとなって、会社全体へと広がってゆく。
齊藤さん自身は、SDGsやエシカルに意識を持ち始めたのはここ2,3年のことだと言う。
あくまでも地域のためになったり、働く人のためになったりするのであればそれはやった方がいいという考えが土台にあり、
そこから自然に様々なことがつながっていくそうだ。
今回、共同でTシャツを制作させていただいたが、フェアトレードについても、知ったのはここ2,3年だそう。
「京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)」という、多種多様な分野から人が集まり、社会課題の解決に挑戦する場への参加がきっかけだった。
“そもそもは、うちが京都のCSR協議会の会員になっている関係でSILKのキュレーター塾を知り、
そこに面白そうなので参加したのがきっかけです。
そこに通う中で、シサム工房さんの名前も頻繁に聞いていました。
その後、自分たちでユニフォームを作ろうとなった時に、SILKのスタッフの方に相談して、つなげてもらいました。
そのキュレーター塾に参加されていた方は、本当に色々な方々がいて、今までは僕はクリーニング、清掃、経営者のカテゴリーしか知りませんでしたが、大きく世界が広がりました。
それぐらいの時から、面白いなっていう人がいたら、巻き込まれてみることって大事だなって思ったんです。”
ポジティブに変化を受け止める精神が、自然な形でつながりを拡げてゆく。
齊藤さんの持つスタンスは、社会が大きな変化を強いられたコロナ禍でも決して変わらない。
“僕の中ではコロナだからってことでもなくて、変わるということは進むってことやと思っているんです。
コロナ前に戻るっていう言い方をされることについては、なんかちょっと違和感がすごくありますし。
なった以上戻ることはないので、戻るのではなく今の経験値をもって進むんだと思っているので。
変化を進化としてみるみたいな。
なんかそのぐらいポジティブに変化を受け止めていくのでいいんじゃないかっていう感じです。”
齊藤さんは、ソーシャルなことやエシカルなことに関わるようになり、
物事の判断基準が「損得」から「善悪」に変化したそうだ。
働く人たちの幸せの追求が、未来への大きな可能性へとつながり、
ワクワクするようなアイデアは、尽きることがないだろう。
確信を持って自然体で進み続ける齊藤さんの言葉は、
私たちがエシカルに生きるための、希望のメッセージに思えた。
FAIR TRADE LIFE STORE by sisam FAIR TRADE
フルカワ
■今回のエシカルメンズコーデ
柔らかな着心地のコットンニットに、オーバーヨークが個性的なシャツを
ジャケット風に羽織って。
ツイルパンツのブラックカラーが全体の印象を引き締めてくれて、
優しく上品な印象に。
遊び心とこだわりを込めた、
大人カジュアルなコーデです。
身長:176cm
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