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アレッポの石鹸の人々
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私は毎朝、アレッポの石鹸で顔を洗う。
石鹸を泡立て、ふんわりと顔をなでていく。
洞窟のような香りに包まれる数秒間で、今日も良い一日がはじまる予感がこみあげてくる。
洗い終わり、水分をたっぷり含んだ肌に触れるときの、毎度のささやかな驚きが嬉しい。
この「特別」が、日常になっていくにつれ、私はこの石鹸がどんどん好きになっている。
「売れるわけない」からはじまった30年
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「アレッポの石鹸は、なんだかお酒づくりに似ているんですよね。」
そう話してくれたのは、株式会社「アレッポの石鹸」の共同代表である太田さんだ。
創業から約30年、この石鹸の良さと背景で生きる人々や文化を
一筋に伝えてこられたことが、社名だけでわかる。
このものづくりに惚れ込んだ先代たちが、1994年にスタートさせた「アレッポの石鹸」の販売。
当時、アンケートをとったところ、90%の人から「こんなもの売れるわけがない」という答えがかえってきたそうだ。
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その大きな理由は、「均一ではない」から。
一つ一つ形や重さが異なる、いびつさのある手作り石鹸。
さらには手間もかかり、時間もかかる。
でも、そこにこそ本質的な良さが、あるんじゃないだろうか。
形がばらばらでも、それでいいんじゃないか。
当時の先人たちが社会に投じた想いが、ゆっくりと波紋になって、30年。
気づけば「アレッポの石鹸」は、たくさんの人に愛される存在になっていた。
自然の恵みをそのまま肌に
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シリア・アラブ共和国にある「アレッポ」という地では、古くから石鹸づくりが産業として人々の生活に根付いていた。
そのはじまりは10世紀ごろとも言われ、途方もなく長い歴史が今もなお現地の人々のなかで息づいている。
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シリアの特別な気候や土壌で育った植物たちの恵みが、ぎゅっと凝縮され、石鹸という結晶になる。
わたしたちの元へと届く「アレッポの石鹸」は、生産者家族を中心に、20名規模で手作りされた石鹸だ。
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原料は「オリーブオイル」と「ローレル(月桂樹)オイル」。
あとは苛性ソーダ、水のみ。
一般的に、石鹸づくりの工程では塩水をたくさん入れて、不純物を取り除くそうだ。
でも、アレッポの石鹸で使用するのは、ほぼ水。
余分な成分(アルカリ)だけをとって、あえてほとんどの成分を残すようにして作られている。
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「醤油とか味噌と同じなんですよね。
化学式だけでは生まれないものなんです。
化学的に合成して作られるもんじゃない。
自然が溶け合って作られるものには、分かっている成分もあるし、分かっていない成分もあるんですよ。 (太田さん)」
その”分かっていない”部分こそ、自然の力と人の営みが混ざり合うなかで、
「美味しい」や「心地よい」が生まれるところなのだと思う。
石鹸ができるまで
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まずは3昼夜、大きな窯でひたすら焚いていく。
その時のオイルの状態や気温などにも左右されるため、熟練の技が必要となる。
やっぱり日本酒づくりに似ている。
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そうして出来上がった熱々の石鹸の素地を、紙を敷いた床のうえに流し込む。
固まったあと、一番寒い時間帯である夜中3時ごろ、カット作業がおこなわれるそうだ。
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これぞアレッポの伝統的スタイル!その風景は一度見ると忘れられない。
大人6人ほどが、子どもを乗せた切断機を引っ張っていく。
家族みんなで息を合わせた共同作業だ。
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そして最後に、一つ一つ手押しされるアラビア語の刻印によって、石鹸に命が吹き込まれるのだ。
出来立ての石鹸は、きれいな緑色をしている。
さらにここから2年間、熟成させていくそうだ。
柔らかい石鹸が時間とともに水分をとばし、表面がキャラメル色へと変化していく。
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この工程を「乾燥」ではなく「熟成」と表現するのは、溶けにくさとともに石鹸自体がまろやかに仕上がっていくから。
年月をかけることで、肌にとってより優しいものが仕上がっていくそうだ。
肌にも髪にも、衣服にも食器にも。
どんな日常のシーンも気持ちよく支えてくれる「アレッポの石鹸」。
手間と時間をたっぷりとかけられて、ようやく私たちのもとへやって来る。
その向こうで生きている
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太田さんは2019年、久しぶりに現地アレッポを訪れることができたそうだ。
「内戦がひどくて入れない状態が続き、久しぶりに現地へ行けるとなった時、どんな顔をして行けばいいか正直わかりませんでした。
悲惨な状況は耳に入っていましたので。
でも、生産者の人たちに『来たら元気になるぞ』と言われたんですよね。
行ったら、本当にいきいきして石鹸作ってるんです。表情が明るいんです。
みんな、なにくそ精神でものづくりを進めていました。」
人々の生活は前を向いて動いているのだということに、太田さん自身が深く心を動かされたと話す。
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石鹸工場は、内戦の影響で2012年より避難した別の場所に移っていたが、
ようやく2021年から、もう一度アレッポの地で石鹸づくりを始めることができている。
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テレビの画面上で流れつづける、シリア内戦のニュース。
シリアと聞くと、今まで私は内戦地区の荒廃した土地や、崩れ落ちた建物ばかりを思い浮かべていた。
でもそこには、たった今も、人々の生きた営みがある。
町も人も、懸命に呼吸を続けている。
自らの力で何かを作り、それを買う人がいる。
自立して生活をしていくということが、人の尊厳をどれほど強く支えているのだろう。
アレッポの石鹸は、そんな尊い事実に気づかせてくれる
ものづくりの力強いメッセージだと思う。
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タニ
画像提供:株式会社アレッポの石鹸