なぜオーガニックコットンを選ぶのか
私たちがオーガニックコットンの服に手をのばすとき。
その行動には、どんな理由があるでしょうか。
環境に優しかったり、身体に優しかったり、”なんとなく”良いものだからという選択をする。
実はそれが数年前の私。sisamで働く前のことでした。
その選択のなかに、作り手の幸せや、その存在すらよぎっていなかったように思います。
sisamで作るオーガニックコットンのコレクション。
その多くを占めるのが「チェトナオーガニック」というインドの農民組合が育てたコットンです。
私にとって、この農民組合ができた背景こそ、「オーガニックコットン」という選択に作り手の存在が強く結びつくようになったきっかけでした。
2000年代のインドで、多国籍企業の介入により大々的に宣伝されたのが、遺伝子組み換えのコットン栽培です。
「虫を倒してあなたを守る」「強くて儲かる」
その謳い文句を信じ、毎日の生活にも苦労していた小規模農家の人々がその種を買いました。
しかしふたを開けてみれば、そのコットンは次の種ができないよう遺伝子操作をされており、
さらに同じ企業が販売する農薬や肥料を投入しつづけなければ育たないものだったのです。
高額な種と農薬や化学肥料を買い続ける無限のループに陥った農家の人々。
農薬の散布では、ほどんどの人が裸足で防護マスクをせずに働き、健康被害も受けるなか、
ようやくできたコットン自体の質も量も低く、あとは汚染された土と借金のみが残るという窮地に追い込まれます。
その結果、数えきれないほどの人々が借金苦により自ら命を絶ちました。
中部インドのコットンベルト(コットン栽培地帯)が、追い詰められた農民が30分に1人自殺する「自殺ベルト」と呼ばれるほど大きな社会問題に発展したのです。
その悲惨な歴史を背負い、農業の専門家や社会活動家たちが数件の農家と2004年に発足したのが「チェトナオーガニック」なのです。
遺伝組み換えの種や農薬、化学肥料を一切使わず、オーガニック農法で「安全」と「利益」を確保しながら農業を続けられることを目指して活動しています。
それを可能にするのは、コットンを買いとる側のフェアトレードの仕組み。
私たちの衣服も担当してくれている縫製工場「ラージュ・ラクシュミ」が買い支えています。
またここでは、なにかしらの食べ物の収穫があるようにと、多種多様な作物をコットンと並行して有機栽培をすることで、「飢えない農業」を守り続けています。
今では3万を超える農家が参加しているそう。
大地の恵みのなかで再び人々が笑い、かつてそこにあった営みを自分たちの手で取り戻しているのです。
オーガニックコットン化を目指す意味
sisamでも、少しずつ生地のオーガニックコットン化を進めています。
オーガニックコットンで服作りをすることは、決して簡単なことではありません。
大手のファッションブランドと比べ、sisamはまだまだ一度で購入できる生地量が少なく、価格や仕入れ面のハードルが高いことが現状です。
オーガニックコットンで生地をつくること。
その証明となる認証を取得すること。
そこには知識や資金、そしてたくさんの人を巻き込む力が必要だというジレンマが常にあります。
それを叶えるために必要なのは、やっぱり人の熱量なのだと思います。
その一人が、手刺繍の衣服で愛される「Kalatmak」の代表ラリさんです。
これからは、オーガニックの世界であるべきだと話すラリさんは、
自ら勉強を重ね、オーガニックコットン化の道を後押ししてくれました。
「値段も高いし、納期のハードルも上がるけれど、そうしていきたい。
手刺繍シリーズのコレクションをオーガニックコットンに切り替えるよ」
Kaltmakの人々は、大きな決断をしてくれました。
いま、オーガニックコットンの生地のうえに、同じインドの地で生きる女性たちの手刺繍が美しく重なっています。
多くの人の熱量がなければ、成しえなかった服づくりの形です。
スクリーンプリントの衣服を作る「Creative Handicrafts」の人々もそうです。
現地スタッフとsisamのデザイナーが何度もやりとりを重ね、
2022年にようやく、プリントシリーズのオーガニックコットン化を叶えることができたのです。
sisamのオーガニックコットン化は、まだまだ道半ば。
春夏コレクションのコットンアイテムのなかで、オーガニックコットン生地のアイテム数が39%というところまで来ました。
もちろんオーガニックではないコットンそのものが”悪い”と思い込むことも違うのではないかと思っています。
それぞれの営みの背景には、単純なものさしでは測れない仕組みや理由があります。
残りの61%の衣服に対しても、私たちは変わらずその行程や関わる人々に敬意をもち、フェアトレードの仕組みのなかでものづくりを進めています。
また、売る側、買う側にとって、利益や求めやすさを重視するのであれば
「オーガニックコットン」という選択は、必ずしもメリットがあるとは言えないかもしれません。
世界のコットン栽培のなかで、オーガニック農法がいまだ1%ほどしか選ばれていない理由に、
そういった大きな経済の流れが根強く関係しています。
それでも、私たちはそこに価値があると思っています。
少しずつ、少しずつ。
難しい道のりだったとしても、ものづくりをとりまく環境を変えていくこと。
そして私たちにとって何が幸せなのか考え続けていくために、
これからも「オーガニックコットン」という選択肢に手をのばしていきます。
FAIR TRADE LIFE STORE by sisam FAIR TRADE
タニ
参考文献:「モンサント -世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業-」 著:マリー=モニク・ロバン 2015年