手刺繍と優しいまなざし
幼い頃、巾着袋やリュックサックなどの持ち物に、よく母が名前や小さな絵を刺繍してくれていました。
手刺繍がほどこされたリュックを持ったときの、なんだか嬉しく誇らしい気持ちと
糸を手で触ったときのぽこぽことした心地よい指の感触は、今でもしっかり覚えています。
そこに込められた「今日もあなたが良い一日を過ごせますように。」という穏やかな祈りのようなものを、
子どもながらに感じていたのかもしれません。
みなさんの身近には、「手刺繍」の作品はありますか。
先日、友人の家でそんな話をしていたときのこと。
友人が、「なんか持ってたかも!」と
押入れから、友人のお母さんが小学4年生のときに縫ったという作品を出してきてくれました。
「まぁ可愛いパイナップル!」と思ったら、どうやらフグだそう。
うん、言われてみるとフグに見えてきたぞ・・ますます可愛い・・!
こちらはなぜか後ろの車輪がない機関車。
一体なぜ途中で縫うのをやめてしまったのか…。そんな謎を残しながら、機関車は走りつづけます…。
かなりの年月がたっているのに、色褪せることもなく、なんだかその時の手のぬくもりが残っている気がするのが不思議ですね。
電動ミシンやプリンターが普及されている今だからこそ、「手刺繍」がより特別なものとして
私たちの暮らしの一部になっているように思います。
わざわざ糸を縫い込み、文字や絵を描くという仕事は、手間がかかります。
この「手間がかかる」ということ。
最近はネガティブな言葉として使われることが多くなりましたが、
私は、そこに人の暮らしの面白みや、優しさのようなものが隠れている気がしてなりません。
シサム工房で長く取り扱っている、インド・ラクノーの「チカン刺繍」の衣服も
そんな温かな手間のかかったものばかりです。
インド中北部に位置するラクノーの地で、400年前から伝わる伝統刺繍。
村の女性たちは家の中で家事や子育ての傍ら、内職的に刺繍をしています。
子どもの頃から糸に触れ、糸で遊んだりしているため、女の子は大きくなったらそのまま自然と刺繍をするようになるのだそう。
彼女たちは、気温が40度を超える厳しい自然条件の中、家族や時にはヤギに見守られながら、一刺し一刺し、丁寧に刺繍をほどこしています。
私のこの夏のお気に入りの一着も、彼女たちの手刺繍の作品でした。
海の向こうにいる彼女たちが、一本一本糸を運ばせるときの優しいまなざし。
手にとった瞬間から、私の日々の暮らしに彼女たちの思いが宿っているような
心地よさを感じながら、大切に大切に使っています。
先日は、ラクノーの地から、新しい秋冬服が届きました。
落ち葉や初雪など、季節を表現した美しい手刺繍。
手にとっては惚れ惚れしながら見つめる今日この頃です。
優しいまなざしが宿る、手刺繍の作品。
もしみなさんが一つでも持っていたら、そんな誰かのまなざしを想像してみてください。
きっと今まで以上にその作品を大切に思えるようになるのではないでしょうか。
Online Store タニ
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シサムの美しい手刺繍のお洋服を作ってくれているのは、インドのフェアトレードパートナー、
Kalatimak(カラティマク)。
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